オピニオン

2023年5月1日

宮沢賢治に菩薩道を学ぶ

 宮沢賢治(1896~1933)が、故郷の岩手県花巻の実家で満37歳の生涯を閉じてから、今年は満90年を迎えます。
 賢治は生前、1冊の詩集(『春と修羅』)と1冊の童話(『注文の多い料理店』)の2冊を刊行していることから、彼を評するとき、詩人であり、童話作家と見なすことが一般的であるように思われます。
 けれども、彼の短い生涯を丹念にたずねてみますと、詩人、童話作家の側面に加えて、地質学、土性学、鉱物学などを盛岡高等農林学校で研究し、専門的知識に裏づけられたことで、「稗貫郡土性調査」に重要な役割を果たしています。それは関豊太郎博士の指導によるものです。
 さらに、18歳のとき島地大等編著『漢和対照妙法蓮華経』に出会ったことから、幼少年期からつちかわれた信仰を基として、さらに熱心に仏教研鑽に励むことになります。ことに24歳のときには、いとこの関徳弥とともに東京に本部を置く国柱会へ入信し、日蓮聖人のご遺文や田中智学の著書、講義録などを読破して、その法華経信仰は生涯変わることはありませんでした。
 しかも、国柱会への入会をきっかけとして、国柱会本部で出会った理事の高知尾智耀氏のすすめもあって、猛烈と童話創作に没入することになります。
 その後、妹トシの発病を機に花巻へ戻り、その地で農学校の教諭として熱心に若き少年たちの教育に当たることとなります。教諭としての生活は、25歳から30歳におよびますが、その間、詩集と童話集を刊行しているのです。
 その後賢治は、教育の場よりも農民として大地に生きる方法を選取することになります。
 30歳で花巻農学校を退職した賢治は、下根子桜の別宅を中心に、花壇を作り、開墾し、さらにレコード鑑賞会や合奏練習、文学論、宗教論を議論するなど、青年を中心とする集まりを設け、『農民芸術概論』の理念を掲げて、活動を展開するのです。また農民に対して無償で「肥料相談」に応じる社会的活動も同時に行い、これは終生変わることはありませんでした。
 以上のように、概略的に彼の歩みをたずねてみても、賢治の活動の多様性がうかがえ、賢治を文学的側面だけで捉えることは不可能です。
 宮沢賢治研究の第一人者であった天沢退二郎氏(1936~2023)は、賢治の評伝を紹介するに当たって、①詩人 ②童話作家 ③農芸化学者 ④農村指導者 ⑤宗教思想家の5つを掲げています(『日本大百科全書』)。これらの5つの側面は、凡人には容易に近づくことが困難な世界であることはいうまでもありません。
 私は、学生時代から花巻や盛岡の地を訪問し、天沢氏が紹介する賢治の⑤宗教思想家の面からわずかながら賢治の生き方をたずねてきました。それは賢治が18歳のとき法華経に出会い、37歳の臨終に当たり、『国訳妙法蓮華経』1千部の刊行を家族に依頼し、翌年その遺言が果たされたこと、その生涯が代償を求めない菩薩としての誓願に基づくもの、という側面に感銘を受けたことによるものです。
 いまあらためて、思想的に混迷に満ちた現代社会において、いかに地涌の菩薩として生きるべきかを考え、あるいは日蓮聖人門下の1人としてどのように自立した生き方を選ぶべきかをたずねるとき、賢治の遺した多くの作品を指南とし、その生き方を1つの指針にしたいと思っています。
    (論説委員・北川前肇)

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