オピニオン

2023年2月20日

「老い」について考える

 自坊の最寄り駅は、JRと地下鉄西日暮里駅である。徒歩で5分くらいの距離だが、最近、ことに感じることがある。それは駅に着くまで、あるいは駅から寺へ辿り着くまで、通行人の多くに抜かれてしまうということである。最初の頃は、「よし抜かれまい」として少し早足をしたが、だんだん息があがり足も上がらなくなって諦めた。
 そういえば、齢70を過ぎたころからそれが顕著になってきたようだ。「老い」は足からというので今は携帯アプリにある歩数を気にしながらの日々である。年齢平均の8千歩を超えているのだが、どうも脚を運ぶ回転が速くなくなっているようだ。山手線・京浜東北線に乗ることもしばしばであるが、自然と優先席に足が向くようになってしまった。
 ここ10年ほど前からだろうか、スマートフォンが普及して若者が優先席を占拠するようになった。身障者・妊婦、そして老人が前に現れても一向に席を譲ろうとしない。下を向いてスマホを見ているから気が付かないのか、そのような光景が当たり前になってしまった。
 ところが、先日、ある若者が「おじいさん」といって声をかけてきた。周りを見渡してもおじいさんらしき人はいない。私のことをいっているのだと合点したが、内心「そんなに老けて見えるのかなぁ」とがっかり。若者が「どうぞ」と手招きして席を譲ってくれた。笑顔で「ありがとう」と返した。
 日本の平均寿命が男性81・47歳、女性87・57歳(2021年度厚生労働省)となっている。医学の発達、環境の整備などにより日本は世界で有数の長寿国、老人大国となった。昨年、65歳以上の割合が28・9%となり今後も増加するという。仏教では「四苦」を説き、「老苦」もこの世に生まれてきた以上、必ず体験するとある。それは分かっているのだが、自分では認めたくないのが人の常であろう。
 お釈迦さまは齢80まで生きられた。自身で「老い」を体感しながら、「老苦」を諦めよといわれた。「あきらめよ」というのではない、「老い」の真理を明らかにし、「見事に老いる」こと「老いを楽しむ」ことを推奨された。
 身延山第92世内野日総法主猊下は、今年1月で98歳となられた。誠に慶賀に堪えない限りである。昨年の暮れ、拓殖大学前総長森本敏先生夫妻が身延山大学公開講座へ出講するため身延山を参詣し、内野猊下にお目通りした。その時、森本先生が「長寿の秘訣」を尋ねると、即座に「節制と使命感を持つこと」と内野猊下は答えられ、先生はいたくその言葉に感激していた。
 日蓮聖人は建治3年(1277)9月11日、身延山から鎌倉在住の有力檀越であった四条金吾に宛てられた『崇峻天皇御書』のなかで「120歳までのんべんだらりと生活して死ぬよりは、生きて1日であっても名を高めていくことのほうが大切である」といわれている。このお手紙には金吾の振舞にも触れられている。要約すれば、自らを律し、目標を持って日々を過ごしなさいと教示されている。
 美しく老いることには精神的なものが大いに関わっているといえよう。米国の詩人であり実業家であったサミュエル・ウルマンは『青春』という詩に、「年を重ねただけで人は老いない。理想を失う時に初めて老いがくる」と詠っている。(論説委員・浜島典彦)

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