オピニオン

2022年5月1日

真の「正義の味方」とは

「イーチネンボー なに習ろたぁー ベント(弁当)箱たーたいーて 箸習ろたー」
近所の悪ガキが、こんな歌をうたって、道ゆく新小学1年生をからかった。1年坊だった妹はベソをかいて戻ってきた。毎日これが続いて、ついに母が怒った。普段は淑やかな母が、この悪ガキを捕まえ、首根っこを押さえてこういったのである。
「痛いやろ。痛かったら小さい子をいじめるのはやめよし!」。
この出来事に震え上がった悪ガキは嫌がらせをやめた。その時わたくしには母が悪を懲らしめる「正義のヒーロー」に見えた。60年前のことである。
その後大きくなるにつれて、この勇ましい母の行いはどこかおかしいと思うようになった。真の正義の味方は、腕力で相手を押さえ付けていうことを聞かせたり、武力や恐怖によって人を支配したりはしない。
■ウクライナの悲劇と日蓮宗
今年2月24日、ロシア連邦の軍隊がウクライナ領域内へ侵攻した。2月25日、この侵攻に対する日蓮宗宗務総長声明が発出され(本紙3月10日号掲載)、そこにはこうあった―「如何なる政治的理由があろうとも、武力的解決は容認されるものではありません」。
声明はあらゆる戦争行為に反対し、平和的対話によって問題を終結させることを要請するものであった。そうなのだ。子どもの喧嘩から国際問題にいたるまで平和的対話こそが紛争の正しい解決策なのである。
しかしこの正義の実行が難しい。日蓮聖人は正法を宣揚されたが故に「少々の難はかずしらず。大事の難四度なり」(『開目抄』)という法難に遭われた。弟子・信徒が命を奪われたこともあった。それでも聖人は1度たりとも仇なすものへの復讐や滅亡を画策されたことはない。
また経文並びに独自の情報網を用いた現状分析に基づいて蒙古の襲来を正しく予測し、被害状況についても詳細に把握されていたが、迎え撃つ戦いを鼓舞されることはなかった。全てを忍受して、益々信心堅固に法華経受持を説かれた。日蓮宗が今日あるのはそのおかげである。
■世界の潮流が変わった
話を現代に戻すと2月27日、ドイツは国防費大幅引き上げの方針を表明した。これに対する国民の支持は、世論調査によると7割に上るという。その後、あいついでヨーロッパ諸国は軍事力強化へと舵を切った。
独裁者の妄想が引き起こしたウクライナへの侵略戦争は、国際政治の潮流を、貿易と対話による平和主義から国防費の増額・軍備増強へと転換させてしまった。
■平和への祈り
ウクライナから避難する妻子を国境の町まで送り届けた後、ひとり故郷にとどまり祖国を守るために戻ってゆく夫の映像を見ていて思い出したご遺文がある。日蓮聖人は蒙古の襲来に対して、一方では正法を失った日本国への「天の啓示という宗教的意味を賦与しながら、もう一方では、なみなみならぬ危惧を抱いて」(高木豊『日蓮とその門弟』)戦いの犠牲になる兵士と民たちを憐れんだ。
「とどまる女こ、ゆくをとこ…かわも山もへだて、雲もへだつれば、うちそうものはなみだなり、ともなうものはなげきなり」(『富木尼御前御書』)
「女こ」と「をとこ」を入れ替えればウクライナの映像にあった別れの情景になる。再び武力によって問題の決着がつけられる世の中になればこの涙が止むことはない。ウクライナの悲劇はそんな時代の始まりを予感させる。いのちを大切にする平和な世を祈らずにいられない。
(論説委員・岡田真水)

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