2021年12月10日
コロナ禍 子どもとどう向き合うか
『更生保護』誌は、法務省保護局の編集協力のもと日本更生保護協会から毎月発刊され、9月号の中心テーマは「少年を取り巻く更生保護」であった。
論説では、神谷俊介・北里大学医学部地域児童精神科医療学特任助教が「新型コロナウイルスの感染拡大が子どもたちに与える影響」と題して執筆。氏は、大学病院での外来診療に加え、児童相談所、発達障害者支援センター、青少年相談センターなどの地域の児童精神保健に関わる中で、子どもたちの精神症状や問題行動の背後にある不適切な生育環境や虐待の世代間連鎖といった家族の問題、経済的貧困だけでなく、人びとのつながりの希薄さなどの社会問題が、子どもたちの心によどみや深い傷を与えていると指摘する。
また児童精神科臨床の立場から肌で感じた現場の様子を報告。一斉休校や外出自粛によって社会の日常は崩壊し、この変化により対人関係や学習などのストレス因である学校に通わなくてよくなり、元気になる子どもは当初は大勢いた。しかし、当たり前の構造や枠組みがなくなることで混乱してしまう子どもも少なからず目につきだした。状況理解や想像性など認知機能に困難さを抱える自閉スペクトラム症の子どもに限らず、多くの子どもたちは周囲の大人たちの不安に反応するように、不安を強め混乱を増していったという。
さらに感染の不安や日常の崩壊の中で「何かしなければいけない」と焦りを生み、強迫行動に駆られる強迫障害から死のリスクを抱える子も増加。子どもたちにとって日常の枠組みや行動規範、加えてこの先の見通しを大人たちが誰も明示できないことが、心の状態を悪化させた要因と述べる。
そこで神谷助教は、子どもの心を守る精神保健を考える観点から、まずは大人たちが落ち着きを取り戻すことが重要と提言する。「子どもたちが、社会に生きていくには、自己を同一化するための対象が欠かせない。その多くは親や身近な大人から取り入れられる」と記し、自身も大人としての自分を明らかにして子どもたちに接していきたいと論を結んでいた。
『朝日新聞』では11月4日から3回にわたり「学校に行けない~コロナ休校の爪痕」を特集。日常の断絶が子どもたちの心に何をもたらしたか、当事者の声と思いを報じた。
文部科学省の昨年度調査によると、不登校の小中学生は約19万6千人で過去最多となった。不登校の主な要因は「無気力・不安」の46・9%が最多であった。
子どもの悩み相談先としては◆生きづらびっと◆こころのほっとチャット◆子どもの人権110番◆子どもの人権SOSミニレターなどがある。NPO法人【あなたのいばしょ】には、昨年3月に開設したチャット相談窓口へ10万件を超える相談が寄せられたが、文部科学省の問題行動・不登校の調査では、学校内外で相談や指導を受けたのは65・7%で、残り34・3%は受けていないことが明らかになった。
長年、犯罪をした人や非行少年たちの更生保護に携わる先人から「彼ら彼女らは正しいことを聞きたいのではない。信頼できる大人に話を聴いてもらいたいのだ」と教えられたことがある。
「聞く」に対して「答える」、「聴く」に対して「応える」。前者には耳と口。後者には心と心の文字がある。我が身を省みて、心で聴いて心で応えられる大人であろうか。信頼できる大人の姿を明示し、子どもの不安や困り感に共感し、いま取り組めることを一緒に考えられる伴走者が求められている。
(論説委員・村井惇匡)