2021年11月1日
新型コロナの心のワクチン
新型コロナについては、感染の仕組みや予防法、ワクチンの有効性や治療薬など、1年前に比べて格段に知見が深まった。
さらに社会状況の変化をつぶさに観察すると、人間の心に及ぼす影響も大きいことが分かってきた。人間の心に及ぼす影響には以下のものがあるようだ。
①「不信感が増幅し、疑心暗鬼を募らせる」政治、医療、医学、行政、経済などへの信頼が揺らぎ、疑心暗鬼を募らせる。相互の不信感を増幅させるような真偽不明の情報が拡散し社会が混乱する。
②「寛容性を失い攻撃的になる」感染蔓延の不安感を背景に、周囲のすべての事柄に対して寛容性を失い、攻撃的になる。また、相互の不寛容を増幅させ混乱させることに快感を覚える。
③「欲望への抑制が失われる」日常生活に必要な活動では満足できず、多くの刺激を求めて感染の危険性の高い場所に出かける衝動を抑制できなくなる。
④「自分の価値観と異なるものに差別的になる」新型コロナの発生源、ワクチン接種の可否、社会経済活動の改変の必要性などに関する自分と異なる意見のものに対して差別的になり、自分の考えを押し付けようとする。
⑤「正邪の判断ができなくなる」見聞するあらゆる情報の正邪の判断に迷い、混乱する。正邪が判然としない情報を媒介して流布させて混乱を増幅させる。
⑥「自分の責任を棚に上げ、他者の責任を追及する」予防対策を講ずることなく感染拡大地域に近づいた結果感染しても、自らの責任は棚に上げ、他者の責任を追及し、社会の仕組み全体に不満を募らせる。
⑦「希望を見出すことができず悲観的になる」自分自身の将来、社会全体の将来について明るい未来像を描くことができず、幻滅し、過度に悲観的になる。
心に生じるこれらの症状は、ウイルスに感染し発症した人に限らず、感染者が発生した社会全体に発症するようである。元々潜在していた素因が、顕在化したという要素もある。あたかも子どものころにかかった水痘のウイルスが体内に残存し、後日そのウイルスによって帯状疱疹が発症するようなものである。従って、感染していない、あるいはワクチン接種を終えたと楽観している人の心の中にも、無自覚のうちに遅れて現れることがあるので注意を要する。
これらの心の症状は、コロナ感染症に対する治療で身体的症状が軽快することによって次第に軽減する場合もあるが、心に後遺症が残って長期にわたって残存し、また、ウイルスが消滅したのちにも再発する場合があるので注意を要する。
このような心の症状に対する治療は、自らの心を内省し、このような症状が出ていることを自覚することが前提となる。自覚がなければ、治療を求める心も生まれない。その自覚の上に立って、釈尊の「良薬」を服用することが治癒への道である。
「現在の日本国中に流行している疫病は、日本国全体の心の病の反映である。釈尊でなければ、法華経でなければ除くことはできない」との日蓮聖人のご教示が、令和の現在にそのまま当てはまるのではないか。
現在使われているワクチンは、コロナウイルスの人体への侵入を防ぎ、重症化を抑制し死亡率を低下させるのに有効であるが、心の症状に対するワクチンは別途必要である。釈尊の「良薬」であるお題目という極めて汎用性の高いワクチンが身近にあることを忘れてはならない。
(論説委員・柴田寛彦)