2020年6月10日
「三密を避けないで」―成仏への道―
私たちが身近に感じていた芸能人が、新型コロナウイルスで亡くなったニュースは衝撃的であった。荼毘に付された遺骨は、感染を避けるために接触しないようにと玄関先に置かれ、まるで宅配の荷物のように受け取るしかない憔悴した遺族の姿。今、世界中が直面している新型コロナウイルスは、「あたりまえ」であった今までの様式のみならず、社会の在り方という概念さえも大きく変えようとしている。
感染予防のためには「3密を避け、人との接触を8割減らす」と言い、全国に緊急事態宣言が出され、自粛が一層強いられた。3密とは、密閉、密着、密接の3つの密だ。安倍晋三首相や小池百合子東京都知事が会見の際に「感染拡大を予防する新しい生活様式の在り方」の中で、感染回避の方法として使われた新たな造語である。しかし、3密とはもともと仏教の中で示された言葉であることは、あまり知られていない。仏教でいう三密とは、身(身体的行為)、口(言語表現)、意(心におもう働きや作用)の三業が、仏の教えと合致して成仏されることを言う。新型コロナウイルスで用いる「3密」のために、成仏への道「三密」をないがしろにはしないでほしいと思う。
ところで、乳幼児教育にも携わっている立場から言うと、未来を担っていく子どもたちには、希望へと繋がる環境の中で育ってほしいと強く願っている。幼稚園は、4月の緊急事態宣言以来、ご家族に登園の自粛をお願いし、出できるだけ家庭で保育をしていただくように促した。しかし、6月の再開をめどに子どもたちが園へ帰ってくるが、保育界では課題が山積している。その1つに、子どもたちの心身ともに健やかな発達には、「ふれあい」という人と人の心と身体の密着が、とても重要だと説いてきたことがある。
人は「ふれあう」ことによって悲しみや痛みを癒し、不安を安心に変え、喜びを共有することができる。「ふれあい」は、人として大切なコミュニケーションツールである。この経験の積み重ねは、人間が生涯にわたって、豊かな社会性を持った人格を形成する基礎をつくるものとして、保育の現場で意識的に「ふれあい」を取り入れ、親にもその大切さを積極的に啓発してきた。しかし、感染防止のために人との間隔は2メートル空けて接触を避け、食事の時は対面でなく横並びで座る。日常的にマスクをして会話するという新しい生活様式を現状では仕方がないと割り切れないものを感じている。
それならば今、私たちができる三業と三密はないかと考えた。「身」1・家に閉じこもっていても身なりを整え、規則正しい生活をしよう。2・呼吸を整え体の緊張をほぐし、丁寧にボディーチェックしよう。3・できるだけ笑顔でいよう。「口」1・人に関心を持ち、「ありがとう」という言葉をたくさん使おう。2・自分の思いを言葉に出して言ってみよう。3・自分からポジティブなコミュニケーションを発信しよう。「意」1・自分の心が揺らいだり、こだわったりするのはなぜか? 心を整理して見つめてみよう。2・未来に希望のあるイメージを描こう。3・自分と自分以外に大切な人を心に描こう。4・日本だけでない世界が平和になることを祈ろう。
新型コロナウイルスとの闘いは始まったばかり。長い共存の時代となるだろう。それを乗り越えるためにも、この三業修行を実践してみてほしいと思う。それは仏に到る道でもあるのだから…。
(論説委員・早﨑淳晃)