オピニオン

2020年4月20日

今、『立正安国論』を読み直す

 文応元年(1260)7月16日、日蓮聖人は鎌倉幕府に『立正安国論』を奏進され、以降、4・5本を認められたといわれる。その冒頭には次のように記されている。
  近年より近日に至るまで、天変・地夭・飢饉・疫癘、遍く天下に満ち、広く地上に迸る。牛馬巷にたおれ、骸骨路に充てり。
 当時の鎌倉の惨状が日蓮聖人を『立正安国論』奏進へと駆り立てたことは間違いない。
 760年前のこととはいえ、近年の日本の状況と類似したところが見られると私は思料する。確かに科学技術などが進んだ今世とはあらゆる面で違うのだが、もし日蓮聖人がご存命であるならば、近年の大震災、相次ぐ風水害、そして新型コロナウイルス感染症をどのように捉えられたのであろうか。
 『立正安国論』の基底には「一念三千」という天台大師智顗が立てた仏法の価値観があると、近代日蓮教学の権威茂田井教亨先生はしばしば口にしていた。
 日蓮聖人は地震学者でもなく、経済学者でもない。仏法の真理を求める求道者であった。「一念三千」という仏教の価値観に照らし合わせて世間の様相を観られた。それは如何なることか。「一念」とは、我が心。「三千」とは「三世間」「十如是」「十界互具」から構成されている。別けても、「三世間」にある「国土世間」「衆生世間」を注視しなければならない。
 つまり、我が一念(心)が狂えば、国土も世間も狂うと解釈された。逆もしかり。国土や世間が狂えば、我が一念も曲がっているとも受け取らなければならない。
 『立正安国論』の主な論旨は法然浄土教の批判である。20年ほど後に臨済禅無住道暁によって編纂された仏教説話集『沙石集』十巻にもその論調がある。しかし、『立正安国論』を貫く精神は、飽くまでも自省と寛容にあると考える。自らを「蒼蠅」「碧蘿」と謙り、第八番答に「全く仏子をいましむるにあらず。ただ偏に謗法をにくむ」と同じ仏弟子法然上人本人を戒めるのではなく、その思想の誤りを憎む、「罪を憎んで人を恨まず」ということを訴えられている。
 さらに、第九番答には私たちが良く読む「汝早く信仰の寸心を改めて……心はこれ禅定ならん」であるが、この表現は前執権北条時頼への配慮の文章といえる。時頼は鎌倉五山の1つ臨済禅建長寺の開基檀越である。「改」「禅定」という語句(1年前に認められた『守護国家論』では禅を否定されている)からは日蓮聖人の寛容の精神が窺がえるのである。
 日蓮聖人はその日の持つ意味合いを大切にされた方である。3回目の国家諌暁は、文永11年4月8日(仏陀釈尊誕生)。中山本(国宝)『立正安国論』は文永6年12月8日(仏陀釈尊成道)。弘安4年11月24日(天台大師忌)には身延に十間四面の大坊が落慶している。
 それでは、7月16日は如何なる日であろうか。安房国小湊の誕生寺所蔵の日祐筆目録には、5月22日には校了していたという。前日の7月15日は道教でいう「中元」、仏教では布薩の日に当たる。西暦538年のこの日に中国の建康(現南京市)で初めて盂蘭盆斎会が行われたという。道教も仏教でも自己反省し、罪過を懺悔する日である。推すると、日蓮聖人は文応元年7月15日までのご自身の半生を省みられ、その翌日を敢えて選ばれ奏進されたのであろう。
『立正安国論』から今一度日蓮聖人の自省・寛容の精神を学び、新型コロナウィルス感染症という国難に罹患者・健常者共に差別・偏見なく立向い、共に栄える時を迎えなければならない。
(論説委員・浜島典彦)

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