オピニオン

2018年10月10日

人間の存在意義を考える

「オッケー○○―電気を消して」「わかりました」「オッケー○○」と話しかけ、利用者の要求にほとんど応えてくれる便利な機械(スピーカー)のコマーシャルを、一度はご覧になったことがあるのではないでしょうか? 家族の団らん風景、一人暮らしの会社員の帰宅時、恋人たちのデート中など、そばに置かれたこの無機質な機械とのやり取りを見ながら、日常生活の中にもAI(artificial intelligence=人工知能)と共存していく時代になったことを、人間の存在意義とともに考えたい。
AIとは、人間にしかできなかったような高度に知的な作業や判断を、コンピューター中心とする人工的なシステムにより行えるようにしたもので、例えば、温度の変化に応じて機能するエアコンや冷蔵庫、将棋のプログラムや掃除ロボットなど、すでに市場でポピュラーに販売されているものと、最近ではもっと巧みな人間の思考に適応する技術の開発が進んでいる人工知能をいう。
英国オックスフォード大学の学者と野村総合研究所が、2015年に共同研究を発表した。それは、国内601種類の職業について、それぞれのAIやロボットなどで代替えされる確率を試算したところ、10年~20年後に日本の労働人口の約49%が就いている職業において代替え可能であるという結果報告を出した。裏を返せば、これから生まれる新たな職種と残った51%の職種が、人間に託されるということである。
この結果に、経済界のみならず私が関わる教育界は非常に揺れた。具体的な職種が挙げられる中で、抽象的な概念を整理するための知識が要求される職業、他者との協調や理解、説得やネゴシエーション(意見や方向性の不一致が発生した際に議論によって合意や調整を図ること)、サービス志向性が求められる職業は代替えが難しい傾向があると示されたからである。この研究結果も影響してか、本年度4月から幼稚園、保育所の教育要領、保育指針が大幅に改定された。この目的は、「すべての幼児に質の高い教育を施すことは、将来の人間性に大きな影響があり、社会にどう関わるのかという基盤となる」という裏付けからである。戦後の学校教育がしてきた「知識をどれだけ知っているか」という暗記とマニュアル化教育から、「何ができるか」さらに「どのような問題解決を現に成し遂げるか」1人ひとりの対話的で深い学びと資質、能力の育成が教育の目標となっていく。これは、人間の尊厳を守るための人間教育が始まったと言ってもいいかもしれない。しかし、ここで進む方向を間違えてしまうと取り返しがつかない危険性も強調したい。
教育要領改定で、幼児期の終わりまでに育みたい10の姿として具体的に示された子どもたちの姿に「生命尊重」がある。これは、AIではできないことである。命ある人間として生きていく中で、とってかわることのできない大切な存在としての自分や、他者に出会うこと。生きがいややりがい、失敗、挫折や葛藤からの学びなど、目には見えない心のありようや揺れ動きに価値を持ち、どう行動にしていくか。自分が、宇宙の微塵な存在として謙虚になることも含めて、釈尊の教えが重なる。人間力とは何か? 人間が存在する意味を、教育に携わる者としての自覚と共に考え続けて行きたい。
(論説委員・早﨑淳晃)

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