オピニオン

2018年6月1日

2千万人の難民

 世界では2千万人が難民としての認定を受け祖国を離れて生活しているという。その窮状もさることながら、外国に出たものの難民の認定も受けられずに行き場を失った人たち、自国内で塗炭の苦しみにあえいでいる人たちが4千万人以上いると聞く。
 日本で難民と聞いて思い出すのはインドシナ半島のカンボジアやベトナムからの難民だろう。日本に定住したカンホジア難民はさほど多くないが、ベトナム難民は国内各地に定住センターがあったから身近な存在だった。小生も難民キャンプが設置されると同時にタイ国内にできたカンボジア難民キャンプで活動を開始し、その後ユニセフの要請を受けてカンボジア国内での救援活動にも従事したから、貴重な体験もさせていただいた。
 国内にいてマスコミからの情報だけで考える難民問題と、現場でみるそれとの大きな違いは、難民問題は心情的な考え方では何も理解できないということだった。「かわいそうな難民さん」が、実は元ポルポト派の兵士で、大虐殺の張本人だったり、ボートピープルの殆どが裕福な華僑たちで、本当に困っている人たちはホー・チ・ミン(旧サイゴン)の街角で物乞いのような生活をしていることなど、入国が認められなかった日本のマスコミによる報道では紹介されていなかった。
 シリア難民に世界の目が注目している間に、ミャンマーではロヒンギャと呼ばれる110万人もの人たちが行くあてもないまま放浪生活を強いられている。
 聞けばこの方々は、第2次大戦前に英国によって強制的に移住させられたのだそうで、ここが先祖伝来の土地というのではないという。英国による統治政策の犠牲者なのだ。その後、ミャンマーの軍事政権時代から迫害を受け続けていたのだが、民主主義の星ともてはやされたアウンサン・スーチー女史に実質的な政権が移行しても彼らの苦悩は変わらないままでいる。いや、むしろ悪化しているようにも見えるのは理解しがたい。
 ところでこの報道で気になるのは「仏教徒とイスラム教徒の対立」という表現がよく使われることである。
 確かに、ミャンマーでは国民の90%が仏教徒である。対してロヒンギャ族はすべてイスラム教徒であるから、事件の表面だけを見ればそう見えるのかも知れないが、これは結果であって原因ではない。
 軍事政権の指導者に仏教徒が多いのは事実だが、仏教の教義や指導者が布教を目的として迫害をそそのかしているのではないことを、確認していただきたい。
 実は過去にも同様の事件が起きたことがあった。やはり同じ地域に住んでいたロヒンギャ族の一部が、国境を越えて隣国であるバングラデシュに逃げ込み「難民キャンプ」を形成したという出来事である。
 仏教徒の迫害に対する「ジハード」(聖戦)と認識されれば世界のイスラム国家から支援が受けられるのでそれを狙っていたにすぎなかったと、日本電波ニュース社で当時バンコク支局長を勤めておられた熊谷均氏から聞いてホッとしたものである。
 ミャンマーでもシリアでも、子どもたちまでもが翻弄されている姿が見える。様々な要因が重なり、解決までに多くの紆余曲折があるのだろうが、せめて子どもたちにだけは悲しい思いをさせない方法はないものか。UNHCRやUNICEFをはじめとする国連機関が尽力している。私たちもせめて資金援助でもさせていただいて、祈りを形に変えてゆきたいものだ。
(論説委員・伊藤佳通)

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