2017年12月1日
仏さまの「休息のススメ」
オリンピックを3年後に控え、再開発が加速化する首都東京では、高層ビルやマンションの建設ラッシュが続いている。また大手企業を中心に徐々に景気回復を見せるなかで、多くの職種で人手不足が叫ばれている。
このような状況は、活気ある今日の日本の姿として目に映るが、一方では憂慮すべき事態も起こっている。
実際、新国立競技場の建設工事においては、当初の計画の見直しもあり、着工が予定より1年2ヵ月の遅れとなった。更に人手不足から工程が遅れ、長時間労働を強いられることとなった作業従事者には実に過酷な現場であるという。そんな状況のなか、新人にもかかわらず2倍の業務を任され「身も心も限界」とのメモを残し自殺した若い現場監督があった。
また、広告大手の企業では、新入社員の若い女性が過酷労働から自殺するという事件が起こり、裁判を通してあらためて企業側のその常態化した雇用体質が問われることとなった。
このような事件は、まさに氷山の一角に過ぎず、違法残業、長時間労働、パワハラ、過労死といったことばに象徴されるように、現場の労働者に多大な負担を強いて繁栄する姿は、今日の日本の負の一面でもある。
個々の労働現場では、その置かれた立場や状況は異なり、経緯もさまざまである。しかし、なかにはこころが疲弊しながらも休むことなく働き続け、がんばり続けた結果、自らを追い込むこととなり、ついにこころが折れてつらい結末を迎える場合も少なくない。
もとより日本人の勤勉さは世界有数ではあるが、時にそれは「休息」を犠牲にして成り立っているところがある。休日返上での働きが美徳とされ、それを当然と考える社会のなかでの今日の過酷労働の現実がある。
この休息について、あらためて考えさせられる仏さまの話がある。それは、法華経の喩え話として知られている「法華七喩」の中の「化城宝処の喩」である。
この話では、真理を求めて長い旅をする旅人の傍に優しく寄り添う仏さまの姿に、その知恵を見ることができるが、この物語は次のように展開する。
「宝(正しい教え)を求めて旅に出た人たち(我々凡夫)であったが、その道は遠く、また大変に困難なもの(人の世)であった。彼らは長旅の途中で疲れ果て1歩も進むことができなくなってしまう。いくらリーダー(仏さま)が励ましても彼らは歩みを進めようとはしない。そこでリーダーは神通力を使って幻の城を造って見せ、彼らに休息をとらせることにする。人々はその城内でしばしの休息を得て元気を取り戻す。なかにはここが目的地だと思い込む者もいたが、リーダーから本当の宝のある所はもうすぐであると告げられ、その幻の城で元気を取り戻した旅人は再び勇気を持って宝を求める旅に出る」
これは正しい信仰へと導く喩え話ではあるが、視点を変えると多様な解釈も可能で、長い人生の旅には休息も不可欠という仏さまのメッセージとしても受け取ることもできる。
私たちは苦しい時、迷った時、進む道を誤ってしまいがちである。現実には非常に難しいことではあるが、まず一旦立ち止まり、休みを取ることも必要ではないか。また私たちも、休むことはけっして罪悪ではないと理解し、自らを追い込んでしまいがちな人からのサインを敏感に感じ取り「がんばらないこと」、そして「休むこと」の必要性を伝えていくことは私たちにもできることであり、それはまた仏の慈悲とはいえないだろうか。
(論説委員・渡部公容)