2017年11月1日
墓じまい? ちょっと待って
今年8月東京ビッグサイトで「第3回エンディング産業展2017」と「ジャパンストーンショー2017」が開かれた。エンディング産業展は葬祭業・墓苑・寺社仏閣・宗教用具業界など「終活」に関連する産業展、ストーンショーは石材専門産業展のこと。参加した320社中、特に注目されたのが袈裟をまとった人型ロボット僧侶「ペッパー導師」だった。ロボット僧侶が木魚を打ちながら読経や法話する姿に人が集まる。何とも言えない光景だった。菩提寺を持たない人、檀家制度に縛られたくない人のニーズに応えたもので、各宗派の読経が可能。ANNによるロボット僧侶の賛否を問う調査(男女50人)では「賛成」17人、「反対」33人だった。
供養部門では「バルーン宇宙葬」や「ダイヤモンド葬」が目を引いた。バルーン宇宙葬とは直径2㍍ほどのバルーン(気球)に全遺灰を入れ、地上35㌔㍍の成層圏で散骨する方法。全国どこでも好きな場所や時間が選べ、法律上の問題もクリアし特許も取得済とのこと。ダイヤモンド葬とは、全遺骨を粉末化し炭素以外の成分を薬品で取り除いて造った人工ダイヤモンドによる手元供養。指輪やネックレスなどの装飾品が展示されていた。自然環境に恵まれた国スイスで制作している。会場には様々な最新終活情報が溢れていたが、信仰的に違和感を覚えるものが多かった。今後は仏教的・教義的な判断も必要になると感じた。
ところで同時期、全国20~70代の男女1千人を対象に葬祭業者・大野屋が「供養に関する意識調査」を公表した。「日常的な寺院・神社・教会等へのお参り」の質問に「大切に思う」26・6%、「大切だが何をしていいかわからない」18・4%だった。これに対し「墓参り」について「大切に思う」57・8%、「大切だが何をしていいかわからない」15・4%、「葬式」について「大切に思う」52・4%、「大切だが何をしていいかわからない」27・5%という結果だった。また「自分に対して葬儀する」の質問に41%が賛成だったのに対し、「両親に対して葬儀する」は70%と高く、「自分の墓を建て墓参を希望する」42・9%、「両親に対して墓を建て墓参を希望する」67・8%と同様の結果だった。このアンケートから宗教心や信仰は低いものの、葬儀や墓に対する意識は失われておらず、自分の葬儀や墓参りは望まなくても両親に対しては70%の人が積極的だった。
最近、継承者の不在や将来子どもたちに迷惑かけたくないという理由から墓じまいを希望する人が増えたと聞く。確かに少子化などにより墓の後継者が困難な時代となったが、先祖代々の墓を継承したり墓を建て次世代に残すことが本当に「迷惑」なことなのだろうか。墓の継承という負担の代償に、それ以上に大切な何かを失わないだろうか。
今、生きる意味や目的が持てない若者が増えているという。その原因の1つに「人生の終焉」を考えないことが指摘されている。私たちは「死」というゴールを考えた時、初めて「いかに生きるか」の答えが導き出される。墓は故人の供養はもちろんのこと、死者と対面して死を感じ「自分が生きていることを実感できる場所」でもある。また先祖と対面することで子孫として自分の存在を実感できる場所でもある。葬儀・墓に対しては親子間で互いに思いやるあまり意識のズレがあるというアンケート結果だった。安易な墓じまいは控えて欲しい。それでもという場合は住職に相談してから決めていただきたいと願っている。 (論説委員・奥田正叡)