2016年12月10日
時代に逆行する不安2016年
新年まであと20日余り、今年は内外多難の年だった。
中東の混乱は、世界に大きな不安を与えた。シリアの内戦の長期化は、多くの難民を出した。シリアばかりでない。アフガニスタンからイランへの難民、イラクの北部諸都市をISが支配することによって起こったシリア難民、これら難民が西欧に流れた。
難民は、人道的には受け入れるべきであるが、すべて受け入れて保護するには経済的に限界がある。 難民の中に紛れて、IS(イスラム国)のテロリストが入り込んで、パリのテロのような残忍な大量殺戮を犯す可能性もある。このような不安が難民排除の理由となった。
今年は、異常気象で多くの被害が出た。
沖縄・小笠原諸島・フィリピン・台湾・中国など、たびたび巨大な台風に襲われた。北海道・東北地方は豪雨禍に見舞われて、農作物に大きな被害が出た。天候不順で日照率が少ないため、農作物の成長が遅れ、野菜が高騰した。
原因は、地球温暖化の影響であると云われている。
沖縄近辺の珊瑚礁が白化して死滅する区域が広がりつつあるという。海温が高くなっているのが原因である、と科学者は云う。
貝類などが好む藻類が、衰退または消失する「磯焼け」が起こっているという。これも地球温暖化によるという。 地球温暖化を防ぐために「パリ協定」では、全ての国が地球温暖化対策に取り組む事を定めた。アメリカの大統領に当選者トランプ氏は「パリ協定はキャンセルする」と演説した。協定は12月4日に発効、法的拘束力を持つことになっていたが、発効できるのかは未知数になった。
ただ、米企業400社が、トランプ氏に、パリ協定を守るよう訴えているという。トランプ氏は考えを変えるかもしれないが、どうなるかは予想が付かない。
このように、地球の将来を考えてすべき事を周知を集めて考えて来たのに、一人の人間の発言で簡単に止められると考える指導者がいるということが、我々を不安にする。
3月終わり、安全保障関連法案が施行された。「集団的自衛権」が認められ、現場の指揮官や隊員の状況に応じ、武器使用が認められるようになった。早速南スーダンへ350人の自衛隊員が派遣された。戦後、戦死者が一人も出なかった日本の自衛隊員から、今後死者が出ることもあり得るようになった。この法案は憲法学者からは違憲であるとの判断が下されている中での決定であった。
今後、戦死する隊員が出ることが無いよう祈りたい。
イギリスでは、EUから離脱するか、残るかを決定する国民投票が行われた。キャメロン首相は、離脱すれば英国経済は打撃を受け、生活水準も低下するであろうと訴えた。国民投票の結果は必ず残留に決すると考えたのだろうが、予想に反して離脱の方が勝った。
間もなくイギリスはEUに離脱を通告することになる。EUから中心国のイギリスが離脱することは、第2次大戦後国連を作り、IMF(国際通貨基金)を作って、国々が武力対立・経済的破綻しないように工夫してきたグローバル化への流れが、大きく後退するのではないか。
トランプ氏が、大統領選の際の公約「アメリカの利益ため」になることをやるという政治的信条は、自国中心的で、その精神は第2次大戦前の状態まで逆戻りしているように思う。
それにしても、クリントン候補とトランプ氏がお互いに悪罵を応酬し合っている姿をみると、悲しくなる。
なぜ建設的な信条を述べたり、施策を具体的に述べるように、周囲の人が進言しないのか不思議でもある。
大聖人は『観心本尊抄』の中で小乗教・未得道教等を信ずる人を評して「徳薄・垢重・幼稚・貧窮・孤露」といわれた。法華経的に見ると、ついこのような言葉が想像されてしまう。不遜すぎる批評であろうか。
(論説委員 丸茂湛祥)