2016年6月10日
今本時の娑婆世界
(1)娑婆世界とは
「娑婆世界」の「娑婆」とは、梵語「サハー」の音写で、忍耐(たえしのぶ)という意味です。「シャバセカイ」とは「忍土」、我々の住んでいるこの世界のことで、西方極楽浄土などと違って汚れと苦しみに満ちた穢土(汚れた国土)とされている。
でも日蓮聖人は法華経寿量品の教えによって、この娑婆世界こそ本仏釈尊の住む常寂光土であると説きしめされ、末法の現実の穢土である娑婆世界を浄土とすべく、本仏釈尊の魂、肝心の題目を受持する道こそ大切であると歩まれ、人びとにもすすめる生涯をすごされた。
つまり、汚れと苦しみに満ちたこの世の中をそのままに捨ておくのではなく、少しでも仏さまの願っている清らかな世の中にしていく精進の中にこそ、仏の弟子としての道があると歩まれたのだった。
(2)三災を離れ四劫を出でたる
仏教の世界観では、1つの世界の成立から次の世界の成立までの変遷を4期に分けられる。「劫」とはきわめて長い時間の単位で、宇宙の生滅などに用いられ「未来永劫」という言葉はよく知られている。
1、成劫(世界の成立期)
2、住劫(安定存続期)
3、壊劫(破壊期)
4、空劫(空無期)
の4期で、この4期は無限に繰り返され、永久に循環すると説かれる。
そして、その中に大小3種の災害が起こるという。「小の三災」は住劫の終末に起こる刀兵(戦乱)、疫病、飢饉の3種で、これにより人びとは滅び、「大の三災」は壊劫の最後に起こる火災、水災、風災の3種で、これにより世界は破滅するという。
つまり「自然による災害」を、人間自身が引き起こす「人災」との災難が人間に襲いかかる2大災難であり、しかも必ず繰り返され、逃れがたい必然の災害と示されているのが特徴である。
(3)今 本時の
「今本時の娑婆世界は三災を離れ四劫を出でたるたる常住の浄土なり。仏既に過去にも滅せず未来にも生ぜず、所化以て同体なり」(『観心本尊抄』定712)(今、本門寿量品において教主釈尊の久遠常住が顕されるにいたり、この娑婆世界は、火災・水災・風災の三災に破られることなく、成・住・壊・空の四劫の変遷をも超え出た常住の浄土なのである。久遠実成の教主釈尊は、過去の世に入滅されたこともなく、未来の世に出生されることもない、三世常住不滅の永遠の仏である)。「『観心本尊抄傍記』)
「今」とは過ぎ去った過去も今現在も、これから訪れる未来もすべて「今」という時によって成り立っている。「後ろを見るな! 前も見るな! 今を見ろ!」。何をするにも「一所懸命」。この今に、この今の時に全精力をそそいでいく。その積み重ねこそ、今の自分をつくってくれる源であるというのである。
「本時」の「本」とは「本心、本気、本音、本腰、本物、本のつくものはいい」などといわれているが、「中心となるもの。もととなるもの」のことで、私たちの今この瞬間の時こそ、本仏釈尊は私たちを「主の徳と、師の徳、親の徳」の三徳をもって導き教え守られている。それこそ「本時」である。
「ひとり三徳をかねて恩深き仏」と仰せられた日蓮聖人は法華経寿量品にその魂をとどめられた本仏釈尊と、常に共に生きられていたのである。
(論説委員・星光喩)
