オピニオン

2015年11月10日

難民問題を考える

多くの人びとがヨーロッパを目指している。数十万人という膨大な数の人たちだ。「難民」と認定された人たちは欧州各国での受け入れが始まっているようだ。
それに引き替え日本は様々な国からの5千人の難民申請に対して11人しか認定していない(9月下旬現在)ことが報道されると、例によって非難の声が巻き起こった。
1980年代にカンボジア難民救援活動に携わっていた経験から発言させていただくと、日本で中東、中近東からの難民を受け入れることが最善策とは思えない。日本の気候風土、生活習慣、文化や宗教が彼らのそれとあまりにも違うからである。
貴重な経験がある。当時タイ国内に設営されていたカンボジア難民キャンプには日本からもさまざまな物資が届けられていたが、その中に当時の日本で余っていた米が含まれていた。いわゆる古古古米と呼ばれた3年前の米である。保管に厳しい日本の米だから品質が劣化して不味いということは決してないのだが実は多くが捨てられていた。
常にインディカ米を主食としている彼らにとって、水分の多いジャポニカ米は「気持ちが悪い」というのがその理由だ。
日本人なら戴いたものを捨てるなど思いもしないだろう。しかも1粒残しただけで目がつぶれると教えられた米である。
しかし、このことで彼らを責めることはできない。彼らにとって米とは水さえあればどこでも育つものだからだ。カンボジアでは雨水がわずかに貯まった椰子の梢で稲が芽を出す。ブータンでは、炊いたばかりの米の中に手を突っ込んで糊状にして手の汚れを落としてから食事をするという。
活動を続けているラオスで、米倉にネズミ返しが付いていないことに気づいてその説明をしたところ「日本人はひどいことをする。そんなことをしたらネズミが餓死するじゃないか」と真顔で言われた。3期作も可能なこの辺りに住む人たちは米に対する考え方が根本から違う。
アジアの仏教国にしてこの違いだ。受け入れる難民の数を増やせば済む問題でないことは明白だろう。「日本は金だけ出す」という非難に動揺する必要もない。その方がずっと効果的な場合もある。
ラオスで建設している校舎の贈呈式には、その都度日本からドナーが出席される。その際、子どもたちに文房具を持って行きたいというご要望を全てお断りしているのは、日本の高級な文具の数々を一時的に知ったところで、それが消耗したときには元に戻るしかないからだ。現金をお預かりして現地の市場で買えば数倍も多く手に入るし、現地で補充もできる。なにより現地が潤う。
さて、今回の難民問題の中で見落としてはいけないと思うのは、自国内に留まって過酷な生活を強いられている人々の存在だ。国内難民などと呼ばれているが、彼らは難民の定義に当てはまらない。難民とは「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるか、あるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた」人びとをいう。
かつてアフリカで飢餓が大きな問題になっていた時、1億人の生活困窮者の内、難民と認定され保護されたのはわずか7百万人だったというユニセフの報告もある。難民という言葉だけで心情的に動くのは考え物だ。
日本は本当にすばらしい国だ。しかし世界の誰もがここに住めるわけでも、住めば手放しで幸せになれるわけでもない。
(論説委員・伊藤佳通)

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