2015年9月10日
世代を超えた遺言を‐3世代ハピネス‐
幼稚園、小学校が一斉に夏休みに入った最初の週末に、出張した夫が興味深い光景を話してくれた。羽田空港から福岡空港までの国内線でのことである。大きな荷物を夫婦でカウンターに預け、出発ゲートの入口で父親だけが子どもたちとその母親を見送る。母親は、空港で準備されたベビーカーを争奪し、土産店に流れる。やがて、土産袋と機内持ち込み荷物に押し潰されそうな子ども達は、母親に連れられゲートに到着。そこで乗り捨てられたベビーカーは20台を超えた。飛行機の搭乗優先者第一位として日常では考えられない程の母子たち、又は子どもたちだけの長蛇の列となったという。機内の話も面白かったが、それは割愛。
約2時間のフライト後、福岡空港の到着ロビーでは、ドアが開くたびに「○○ちゃん!」と萬面の笑みで手を振る老夫婦の姿。我が娘と愛してやまない孫たちとの再会を心待ちにして空港まで迎えに来ていた夫婦は、30組を有に超していたという。お盆休みまで仕事の父親を残して、一足先に母親本人の実家へ帰省するという、新しい帰省の姿であろう。
千葉県にある東京と名のつく一大テーマパークもこの夏に「3世代ハピネス」をうたったCMを流している。ここ近年、家族形態が多様化していく中で、3世代家族のあり方や意識が大きく変化し、それと共に高齢者の家族の中での役割や立場も変化していると思う。毎日新聞社人口問題調査会実施の「全国家族計画世論調査」によれば、「老後は、子どもに頼るつもり」と答えた人が50年で5割近く減少している。それと関連してか、子ども世代も親子間において、平等の役割分担という意識が増加していることが分かる。
また別の研究では、若者の高齢者への態度(高齢者意識の形成)は、自分の祖父母との関わりの質に起因し、この祖父母と孫の良好で質の高い関係づくりは、母親(娘又は嫁)と祖母がいかに良い関係を持っているかということが大きく影響するという。「ママとばあばが仲良し」が祖父母と孫が幸せに繋がるということなのであろうかと思う。
9月、我園も長い休みを「じいじとばあば」の家で過ごした子どもたちが登園してきた。日本にとって原爆投下、終戦を迎えた大事な8月を「じいじとばあば」と過ごすことができたのであれば、この子たちが、70年前の日本の姿を、そして戦争という痛ましく悲しい経験を語ってもらえたかなと期待する。後につながる肉親には、このような不幸やトラウマを味わうことがないようにと願う人びとの心の内が、当時のことに関して口を閉ざしてしまう事や「子どもに迷惑をかけずに」という老後の生活スタイルになっているのであろう。本当にありがたい親心である。しかし、日本がしてしまった反省も含めて、ぜひとも悲劇の経験を「絶対に繰り返してはいけない事」として伝えてほしいのである。
今、この平和が当たり前でなく、御霊となった先代たちの悲しい経験と、その後の努力の上にあるということを伝えてほしいのである。以前、在園の保護者に向けて「お寺の幼稚園に入園させて嬉しかったことは何ですか」という問いに対し、「実家のお墓や仏壇に、親が指示しなくとも自ら手を合わせてくれた我が子の姿を見た時」という答えをたくさんの保護者が寄せてくれた。孫と過ごす貴重な時間だからこそ「大好きなじいじとばあば」から世代を超えた遺言のように、平和と戦争についてそれぞれの言葉で伝えてほしいと終戦70年を迎えたこの夏思うのである。
(論説委員・早﨑淳晃)