論説

2015年6月1日

立正大学社会人オープン講座

昨年から、思い立って立正大学の「社会人オープン講座」を受講している。昨年度は三友健容教授の「天台学概論」と北川前肇教授の「観心本尊抄講義」、本年度は安中尚史教授の「日本仏教史」を選択し、学部の若い学生たちと共に1コマ90分の講義に臨んでいる。寺院にいて、日々檀信徒と接し、様々な社会問題について考える中で、現実に生起している様々な課題に対する仏教的な、日蓮教学的な解答を探る上で、個人的な独善に陥ることなく、教理教学に基づいた論究が必要であると痛感し、学ぶ機会を求めていた。
最近は様々な研修会や講習会の開催が増え、更にIT機器の進歩によって望む情報に接することも容易になったので、地方にいても最新の知見に接する機会は格段に増えたのであるが、一人で本を読んだり、単発的な講習会や研修会で学ぶだけでは十分とは言えない。今回、大学でその道の権威から系統的に学ぶことができ、そのような学びが極めて大切であることが実感として分かった。このような講座を社会人に向けて開設している立正大学に深く感謝している。
立正大学仏教学部の「社会人オープン講座」は、生涯教育の一環として、また、日本精神文化の華である仏教を広く紹介するために開設している。この講座の特徴は、社会人のみによるクラスの編成をするのではなく、学部開設の指定科目に学生と共に出席して学習するところにある。高校卒業程度以上の学力がある者が対象で、簡単な面接による選考を経て受講料を納入すれば、受講できる。
設定科目には、インド仏教史、中国仏教史、日本仏教史、法華経概論、天台学概論、日蓮聖人伝等の基礎的科目から、社会と宗教、仏教デス・エデュケーション等の応用科目、更には海外や国内の仏教文化研修まで、幅広い科目が設定されている。
私の受講した科目の受講生はほとんどが学部学生であったが、還暦を過ぎた私と同年代かあるいはそれ以上の、定年退職後と思しき人たちが少なからず若者に交じって受講しており、これからの高齢社会における生涯学習のあるべき姿の一断面を見る思いであった。
今回私が受講を志した背景には、東日本大震災の経験があった。大震災被災地を行脚すると、多くの犠牲になられた方々の声が聞こえてくると同時に、草木や国土の悲しみの声も聞こえてくる。人間社会だけではなく、動物も植物も、そして国土全体が安らかであってほしいと願わずにはいられない。それでは、人間と動物、植物や国土とは、仏の教えの上でどのような違いがあるのであろうか、そこのところを仏教の原点から学んでみたいと思ったのである。そして、1年間の学びの中から大きな示唆を得ることができた。草木の成仏ということに関しては、仏教が釈尊の時代のインドから中国を経て日本に伝来する中で、さらに日本でそれが発展していく過程のなかで大きく変遷してきたことが分かった。
青年期に勉学に励むのとは違って、社会生活を経て多くの課題に突き当たった後に、今一度原点に帰って基礎的な事柄を学びなおすことによって、複雑な問題の内容が整理されてよく見えてくることがあるものである。社会経験があって初めて意味が理解できることもある。そこに生涯学習の意義があるのであろう。問題意識の置き方はそれぞれであると思うが、課題を持ち続けることが認知症予防にもつながるとの見解もある。
興味のお持ちの方は、立正大学仏教学部事務局「社会人オープン講座係」にお問い合わせの程。(☎03・3492・8528)(論説委員・柴田寛彦)

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