オピニオン

2021年6月1日

選択的夫婦別姓と実家の追善供養

家制度とお墓
 1979年、本宗の京都市常寂光寺に「女の碑」が建った。後継を持たない単身女性たちが、血縁ではなく志縁によって建てる画期的な死後の安らぎの場となった。
 戦後「家督相続」は法律上なくなったが、「系譜、祭具および墳墓」には、民法897条「祭祀に関する権利の承継」によって「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」という規定がある。無縁墓が増えている原因は、家制度がなくなったことだけでなく、家制度が「慣習」となって残っているからではないかという指摘がある(井上治代『女の「姓」を返して』)。
夫婦同姓という法律
 結婚による改姓によって、実家の両親や先祖の供養が困難である、という一人娘や女きょうだいだけの人たちの嘆きは、ネット上にたくさん見られる。日本だけに、夫婦は同じ苗字でなければならないという法律があり、「慣習」によって、いまだに9割以上の女性が実家の姓を捨て、それと一緒に自らの先祖も放り出さざるをえない(と考えている)のである。
 選択的夫婦別姓運動というのは、夫婦は同姓でなくてもよいと法律上認めよというものである。夫婦別姓は家族の一体感・絆を壊すと言われるが、一体感や絆は同一の苗字を名乗ることで保たれるものではない。
結婚した娘がする実父の供養
 実家の父の命日が来るというので、身延の日蓮聖人に、お供養の白米と芋を送った夫人がいた。亡父というのは駿河国松野郡の領主六郎左衛門入道。その姓・氏は不明で、聖人はこの人を「松野殿」と呼んでいらっしゃった。
 追善供養を頼んだ故松野殿の娘のファーストネームは伝わっていない。彼女の夫南條兵衛七郎は北条時頼の近習の武士で、上野郷に知行地を与えられていたために「上野殿」と呼ばれていた人である。その息子の時光もまた「上野殿」であった。それでその女性は「上野尼御前」、「上野殿母尼御前」という間柄称で呼ばれた。
 松野も上野もその時の居住地を示すものであって、ファミリーネームではない。例えば『吾妻鏡』には、三浦介義明の弟は筑井義行、子息は杉本義宗などと父子兄弟が異なる地名を冠して記されている。
 坂田聡の『苗字と名前の歴史』によると、個人に付された地名などが世代を超えて継承される「家名」になったのは、長男への単独相続が一般的になった十四世紀の南北朝内乱期以降であるという。つまり日蓮聖人が生きた時代、鎌倉武士には「家名」はなかったのである。
 「女子分」と夫婦別姓
上野尼御前ばかりでなく、千日尼、内房女房も実家の父の追善供養の布施を届けている。高木豊は、こうして女性たちが実家の「仏事営為の主体」となっていることに注目した。彼は「日蓮と女性檀越」『日蓮攷』で、女性たちが実家から相続したと考えられる財産があったとして、これを「女子分」と記した。
 鎌倉時代、財産相続の形態は兄弟姉妹全員が相続権を持つ分割相続であり、結婚しても夫婦別財の原則があった。女子分は亡き実家の両親やかの女自身の現世安穏・後生善処のための資財とされ、女子分を有する女性は仏事営為や作善結縁の主体となり得たという(高木「中世の妻女と後家と後家尼」前掲書)。また女性は結婚後も実家の姓(氏名)を使用し続けた。夫婦別姓であったのだ。
 現在、夫婦同姓の法により、結婚する者の半数が実家の姓を変えざるを得なくなる。改姓者の多くは、中世の人びとに比べて、実家の仏事供養をすることを困難であると感じている。選択的夫婦別姓はこのような状況を改善する可能性を秘めているのである。
(論説委員・岡田真水)

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