オピニオン

2020年1月10日

幾多の法難の末に

 新年早々、私事で恐縮、恐縮。一昨秋の11月27日から昨春の2月23日まで、自分のお腹の常在菌「腸球菌」が、入ってはならない椎間板の中に入ってしまい、「化膿性椎間板炎」という病気を得、主治医の「3ヵ月は見てください」との言のごとく、90日間の闘病生活を余儀なくし、つくづく健康のありがたさ、大切さを痛感しての昨年の迎春であった。治療は「ベッド上安静」と、「抗生剤」の点滴投与であった。ところがである。3週間を過ぎた頃であろうか、下肢全体に発疹が表れ一騒動。薬剤を「バンコマイシン」の点滴投与に転じて、事なきを得たが、「薬と薬が行き合て争ひをなし人を損ずることあり」(『南條兵衛七郎殿御書』)との日蓮聖人のお言葉を思い浮かべ、流石と合点した。これ今日の「お薬手帳」の基か。
  ◇  ◇  ◇
 さて、今夏はオリンピックが開催される。待ち遠しいのと同時に日蓮宗にあっては文永8年(龍口刃難と佐渡配流)の法難750年の大事な、大切な、節目の年である。この法難についての謂は控えるが、これより指折りて8年後の弘安2年(1279)富士山南麓(現・富士・富士宮の両市)に教線を伸ばす日蓮教団に、これを疎ましく思う人間が弾圧の策謀を企て、殉教者を出すに至る法難が起こる。これを熱原法難という。
 鎌倉時代の駿河の国は、源平の「富士川の戦」で武功のあった武田信義が源頼朝によって守護に任ぜられたが、4年で罷免。その後は代々北条執権家が守護となり、北条得宗家の主要基盤となった。にもかかわらず駿河在地の南條氏をはじめとする地頭層、民衆の中には日蓮聖人とその門弟に帰依する者が多かった。
 ことに駿河7郡中、富士南麓の富士郡下方(熱原・加島の南部一帯)は富士川のデルタ、肥沃にしていわば穀倉地帯。この一帯に日蓮聖人の高弟・日興上人は、熱原の滝泉寺の住僧らを教化、法華信仰を培い、育み、そして弘め、その法勲凄まじく、同地に日蓮聖人生前最大の信徒集団を作り上げた。これに対して滝泉寺院主代の平行智は、得宗被官上首の平頼綱と気脈を通じ、日蓮教団弾圧の謀を廻らした。その顛末は教誌『正法』160号のごとく、弘安2年(1279)9月、刈田狼藉を口実に、神四郎ら農民の信徒20人を捕縛、鎌倉へ連行。頼綱は念仏を強要したが彼らは唱題で答えた。その仕打ちは苛酷で首謀者の神四郎ら3人は斬首、17人は禁獄であった。悲しくも殉教の歴史を刻む。
 翻って、神四郎らが退転せず唱題したことを聞いた日蓮聖人は、「偏に只事に非ず、定めて平金吾(頼綱)の身に十羅刹の入り易はりて法華経の行者を試みたまふ歟」(『変毒為薬御書』)と申せと、日興上人らに指示している。後年、霜月騒動に勝利し権勢をほしいままにした頼綱であったが、熱原法難から14年後の永仁元年(1239)4月、頼綱とその一門は、執権北条貞時によって誅滅された(平頼綱の乱)。この誅伐を日興上人は「法華の現罰を蒙れり」(『本尊分与帳』)と記す。因果は生きている。
 話を元に戻そう。今年は文永8年の龍口・佐渡の法難から750年。この750年の歴史の流れは決して平坦なものではなかった。幾多の僧侶や信徒が尊い命を失ったことか。辛い思いをした者も数知れずいたことだろう。名も無き人たちが命がけで繋ぎにつなぎ、今日の法華信仰があると考えていい。その大河の流れの末に自分がいる。つねにそれを自覚して日々の信仰生活を送っていただきたいと願う。
(論説委員・中條曉秀)

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