オピニオン

2019年11月1日

カタチを継承し、心を伝える

―小学生の子どもが自分のやり方で食器洗いをしたがり洗剤の泡だらけの食器が戸棚に入っていた。母親はその子の自主性を尊重して子供が寝てからこっそりやり直したそうだが、正しいやり方は教えなかった。また別の家では、ケーキの飾り付けだけ、ホットケーキの焼くところだけと、やりたいことだけ(自発的に)「お手伝い」したがる子供達のために、準備に追われる母親もいる。働いているため忙しく時間がなく、「やりたがるお手伝いをさせてあげられない」と悩むお母さんの声は、もう聴き慣れた表現となってきた―
 右の内容は『地域人』(大正大学出版会)に連載される岩村暢子大正大学客員教授による「食卓から見たニッポン人の変化」から【お手伝いと親子の伝承】と題した文章の一部である。
 氏は、20年以上にわたり食卓を通した現代家族の研究を続けてきた。本文の中では、子どもの手伝いは「させる」のか「してもらうのか」の調査結果と合わせ考察が加えられている。
 それによると60歳未満の親、 つまり50代までの親では、「子どもに手伝いをさせる(手伝わせる)」という言い方をする人はほとんどいないという。大抵は、お手伝い「してもらう」「してくれる」で、若い親では「お手伝いさせてあげる」「させてあげられない」という冒頭に紹介した表現をする人が多いとのこと。
 この背景には、1960年の「育児書ブーム」以降、急激に浸透した新しい育児思想があると考察。親や大人が子どもたちに対して権威的な姿勢で厳しく型にはめ込んでいくのではなく、子ども中心の思想に変わったと指摘される。
 また、子どもの自主性と自発性を尊重する教育は素晴らしいと評価しつつも、おふくろの味・郷土料理・行事食、さらには地域の祭りや伝統行事が家族で伝承されにくくなる要因の1つに「受け手」である子ども中心の親子関係があることが否めないとも示されていた。
 氏が結論で述べられる、伝承の多くは受け手のやりたいかどうかの意思や自発性とは関係なく、日常の暮らし中で長い間、繰り返されることによって、いつの間にかその人の心や身体に刻み込まれて伝えられてきたものが多く「受け手がその【意味】や【価値】に気づくのは、きっと随分あとになってからだ」との見識に首肯した。
 平成27年、日蓮宗宗務院伝道部は『檀信徒 信行の手引き~檀信徒のこころえ』を発行した。20頁ほどの小冊子ながら、仏事作法に込められた心とカタチについて重要項目にしぼってまとめられた良書である。
 本書は、早水日秀師監修のもと、上田尚教師・本田義純師が宗定日蓮宗法要式の観点、大西秀樹師が教化の立場、伝道部が日蓮宗宗制との整合性の見地から編集された。
 序文には「カタチを継承していくことによって、目には見えない心を伝えていく」として、仏祖への尊崇敬慕の発露としての作法、先祖に対する感謝尊敬の気持ちを供養という作法で伝える大切さが記されている。
 同時に心の乗らない伝え方としての「形骸」に対しての警鐘を鳴らしている。なぜなら、形骸は心ばかりか、カタチそのものの喪失につながるからである。
 私どもの日々の信行は、仏祖から先師先人を経て今日に伝わるお題目の信仰である。通夜・葬儀に始まる仏事、年中行事の寺参り、相手を敬う合掌も「受け手」中心の導き方ではなく日常の暮らしの中で繰り返すことが肝要ではあるまいか。(論説委員・村井惇匡)

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