オピニオン

2019年2月10日

「保」が伝える意味とこれから

昨今メディアでもさまざまな行事や催しを、「平成最後の○○」という言葉で紹介している。新しい元号が何になるのか関心は広がる。私は、お寺の幼稚園の園長という立場で、子どもを「保育する」という仕事にも携わっている。3月に平成最後の卒園生を送り、新入園児を迎える4月、新たな元号に「保」が入ってほしいと思うのである。
今年10月から消費税の引き上げによって5、6兆円の財源を見込んだ国政は、その予算の2兆円を幼児における保育の無償化、つまり預かる時間が最高で1日11時間まで保育料がタダになる法律を実施することを発表している。大変大きな社会変革の波が来ている。今、すやすや眠っている赤ちゃんは、まさか自分がこれから小学校までの6年間、11時間もの間親と引き離されて施設の中で育っていくことなど想像もしていないであろう。選挙権のない乳幼児たちの「ママと一緒にいたい」という泣き声に近い声は、国政には届かない。この政策は、表向き幼児教育の重要性を説き、(すべての幼児が教育を受ける権利がある)子育て世代の経済的な負担軽減といういいことづくめのように、メディアでも取り上げられている。しかし、未来を担う子どもたちにとって人格形成の基礎を育むこの時期に、本当に必要なのは「保育の無償化」という大人へ向けた金銭的なサービスなのであろうか? 便利さや規制緩和の裏で、問題視される長時間預かることによる子どもたちの心のケアや安全、家族という営みの崩壊、雇用される保育者の労働負担、それが引き金にストレスのはけ口は弱者へ向かうという虐待問題など、山積みの問題を子ども側にたって議論することなく、利便性の方向へこのまま進んで大丈夫なのであろうか。今、子どもに寄り添い「保つ」ことをしなければ、今後の人間が人間らしく育ち、生きていくことが「保てなくなる」と思うのである。
本来保育の「保」という字は、子どもの今を「たもつ」ことである。絶対的な信頼を親に寄せて、安心という心地よい世界で育っていくことを「たもつ」のが大人の責任である。その漢字の成り立ちからも、人が子どもをおんぶしている姿を現したものであるという。これは、人間が昔から受け継がれてきたあたたかい子育ての風景である。何もできない幼き子が、大人に委ねてきた信頼を基盤に社会へ旅立つまで、引き受けてやるという関係こそが、この字の意味する本質なのだと思う。そして、この風景を「たもつ」ことが、私たもつ保育に携わる者の使命だと考える。戦後、これからの日本は乳幼児期の教育が重要であるとして、幼稚園、保育園を創り地域の子どもたちやその家族の幸せを応援してきた。その中心となったのは、全国にあるお寺であった。創立者であったお寺の住職たちは、境内地を開放し、「ほとけの子」の育成を祈り「保ち」ながら今日に至っていると信じたい。現在、宗派を問わずお寺の幼稚園、保育園数は、公益財団法人 日本仏教保育連盟に加盟している園だけでも1070園とされる。日蓮宗のお寺が経営する幼稚園、保育園も120園以上全国に存在している。どの子ども達にも仏性が内在し、その種を育み咲かすことに私たちの使命がある。見宝塔品第11の後半に、「此の経は持ちがたし」法華経をたもつことがいかに困難であるかが語られる。この時代だからこそ平和を導く地涌の菩薩の出現を「保育」の中に見出し、お寺の園長たちが子どもの声を発信すべき時なのではないだろうか。「保」のにんべんを取ってみると「呆ける」となり、気が抜けて放置するという意味を持つことを自覚してほしい。
(論説委員・早﨑淳晃)

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