オピニオン

2018年8月1日

介護現場の実状と宗門運動

数年前、地元で、NPO法人を解散して、新たに社会福祉法人を立ち上げることになり、新理事長と知人であることで、理事を引き受けることになった。
法人設立当時、筆者は宗務院に通う身であったため、理事会や行事に欠席することも多く、十分な関わりができなかったが、現在は時間に余裕ができて、理事会での報告等の資料にも目を通せるようになった。
先日、定例の理事会があり、平成29年度事業報告、決算報告が議案として提示された。
この法人は、7ヵ所の拠点を持ち、特別養護老人ホームだけでなく、デイサービス、ショートステイ、グループホーム、居宅介護事業など、さまざまな社会福祉事業を手がけているため、事業報告にしても決算報告にしても、結構な分量であった。
その事業報告にも示されていたが、この法人の基本理念の第一が「私たちは、思いやりの心で良質な介護を提供し、自立した日常生活の支援に努めます」ということであった。むろん、法人設立当初からの理念であり、既に承知していたものである。
ところで、本宗で現在展開中の「立正安国・お題目結縁運動」の中で、日蓮宗僧侶向けに出された『但行礼拝から敬いの心へ、そして社会へ』(平成21年12月8日)という冊子には、社会との関わりについても触れられている。その47ページには、「各種福祉施設利用者の方々に対して、一人一人を敬う心を忘れずに接し、彼らがこれまで歩んできた人生やこれから過ごすであろう日々の充実を願うような運営を心がけていただきたいと思います」とある。
両者の言っていることにはほとんど違いがないように思われる。施設利用者の皆さんへの温かい眼差しを基本に、人格の尊重を忘れてはならないということになるかと思う。
さて、その社会福祉法人の事業報告であるが、この基本理念に加え、更に29年度は「笑顔の溢れる施設づくり」を掲げて運営に当たってきたという報告であった。
大変素晴らしいことで感心しながら聞いていたが、口頭での説明で思わぬ実状が報告された。「思いやりの心」での介護、「明るく元気な施設」を現場で維持することは、必ずしも容易ではないという。それは、介護現場の過酷さや慢性的な人手不足により介護職員に大きな負担が掛かり、精神的余裕がなくなってくるというのである。
もちろん、施設としてはこういった状況に対して手をこまねいているわけではなく、毎月研修を行って意識の向上を図っているので、「思いやりの心」で「明るく元気な施設」を運営できているということであった。ただ、その研修自体も勤務時間外に行わなければならず、職員への新たな負担になる可能性があると危惧していたのである。
筆者自身、要介護5の家族を数ヵ月間介護した経験がある。介護の厳しさは言うに及ばず、24時間気を許せない状況では、精神的に追い詰められる難しさがあるということも十分承知している。
それにしても、介護施設も増加し、介護保険制度も充実してきたはずなのに、現状は相変わらず厳しいままのようだ。
私たちは宗門運動の中で「敬いの心」を高らかに謳っている。そしてその「敬いの心」は単なる理念ではなく、実践してこそ意味を持つと強調されてきた。しかしこの介護現場の実状は、実践することの難しさを如実に物語っている。私たちは、その困難を克服し、「敬いの心」を実践していかなければならないと改めて強く思う。
(論説委員・中井本秀)

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