オピニオン

2018年6月10日

「母の日、父の日」知恩報恩を考える

 日蓮宗では、年に3回日蓮宗総本山身延山久遠寺の信行道場にて35日間の結界(教団の僧侶の秩序や聖域を維持するためある一定の区域を限ること 岩波仏教辞典)修行を行っている。ここを終えて、初めて日蓮宗教師(僧階を叙任され、住職になれるなどいうなれば独り立ちした日蓮宗の僧侶のこと)となるのだ。5月末から6月に開催される第2期信行道場は、女性が対象で、私もこの修行を経て教師となり、今日に至る。
 35日間の修行は、基本的に男性と同じ内容で、読経・写経・水行などさまざまな訓育が行われる。登詣修行もその中にあり、奥之院の頂上にある思親閣登詣の経験は、感慨深い思いに耽った。ここは、日蓮聖人が故郷千葉県安房小湊のご両親を追慕し、その方角に向きながら追善を祈った場所である。私もその同じ場所に立ち、千葉県と同じ方角の故郷葛飾区に、手を合わせ心から両親への感謝と無事を祈ったことが忘れられない。
 また5月6月、私が園長を務める幼稚園の保育室の掲示ボードは、子どもたちが描いたお父さんお母さんの絵でいっぱいになる。5月6月は、親と子のいのちの繋がり、親への感謝といった知恩報恩について考えさせる季節なのだ。
 さて、地方自治体で急速に発展しているサービスを「親孝行サービス」という。これは、ふるさと納税の返礼品として、実家に住む両親に対する見守りといったサービスを「親孝行サービス」とうたい、導入する自治体が全国的に増えているという。ふるさと納税の大手仲介サイト「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンク(東京)によると、同サイトで紹介する返礼品のうち「見守り」「親孝行」と言った言葉が含まれる件数は、全国で120件に達しており、民間企業やシルバー人材センターが、一人暮らしの高齢者らを対象に、安否や体調を確認したり、掃除や庭の草取りといった家事を代行したりする内容が多い。寄付額6万円以上は半年で6回、12万円以上で1年間12回の訪問による見守りと言う内容。さらに、墓の周りの清掃、墓石の水拭きなどの墓の見守りなどを選択できるサービスも加わったそうだ。地方の過疎化や、自治体の財政赤字などの問題は深刻化している。しないよりしてくれる方がありがたいが、しかし何とも切なくなる思いを抱く。本来手塩にかけて育ててくれた親への報恩が、自分の手を介すことなく代金引換サービスとなることを「親孝行サービス」と称し、今後ますますこのサービスの需要が拡大されることが予測される。このような商業的なサービスの発展や、介護福祉の充実を「介護の社会化」と呼んで賞賛してきた私たち。1人暮らしの高齢者の割合が、世界第1位の福祉国家であるスウェーデンと日本の1人暮らしの高齢者問題で明らかに違うのは、日本は家族と過ごす時間・頻度が大変低いことである。日本は、親身な関係を生むための助け合いと育ちあいを社会化することによって、豊かであたたかな人間性を育む機会を失い、ますます親と子の繋がりを一層希薄なものにしてしまった気がしてならない。
 日蓮聖人は、『四恩鈔』に「六道に生を受くるに必ず父母あり(中略)然るに今生の父母は我を生みて法華経を信ずる身となせり」と示され報いなければならない4つの恩に父母の恩をあげて説かれている。どのいのちひとつなくても今の自分がないいのち。子どもたちが、遠く離れた故郷の父母に思いを寄せ、還れる機会をどのようにしたら作れるのか。親の恩に報いるということを、どう考えどう受け止めるのか。私たちは、法華経を通して親と子どもたちの繋がりの懸け橋として主体的に関わっていかねばならない時代である。(論説委員・早﨑淳晃)

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