オピニオン

2018年3月10日

刹那に生まれ変わることができる

昔、インドはコーサラ国の首府である舎衛城に1人の殺人鬼があった。彼は、人を殺しては指を切り取り、その指で首飾りを作っていたことから、「アングリマーラ(指で作った首飾りを懸けている男、指鬘外道」)と呼ばれ、人びとに恐れられていた。コーサラ国の波斯匿王は軍勢を率いて、何度もアングリマーラを捕らえようとするも、まさに「神出鬼没」の彼を捕まえることができないでいた。夜な夜な出没する殺人鬼アングリマーラ。朝になると街には、指を1本切り取られた死体が転がっている。王の軍隊さえものともしない連続殺人鬼の悪行に、舎衛城の人びとは恐怖した。
そのようなある日、夕暮れの舎衛城をお釈迦さまが訪れた。舎衛城の人びとの忠告にあえて耳を貸すことなく、アングリマーラが出没する街道へと歩みを進めたお釈迦さまは、アングリマーラに命を狙われる。しかし神通力を用いて彼を回避し続け、最後は〈諸行無常〉の教説をもって、かの殺人鬼を教化することに成功する。受戒した彼は、「殺人鬼アングリマーラ」から「比丘アングリマーラ」となったのであった。
あるとき、アングリマーラが托鉢へと出向いた道すがら、路上で苦しむ1人の妊婦に出会う。慈悲心を発した彼は、舎衛城郊外の祇園精舎へと戻り、お釈迦さまに状況を話し、妊婦とお腹の赤ちゃんを救う方法を問うた。すると釈尊は、次のようなことばをかけることで彼女らを救ってあげなさいと諭した。
「ご婦人よ、私は生まれてよりこのかた、いきものの命を故意に奪ったことがない。この真実のことばの力によりて、あなたとあなたのお腹の赤ちゃんに安穏あれかし」
インドには古来、真実のことばには願いを叶える不思議が宿るという信仰がある(平成29年7月10日号論説)。お釈迦さまはその力を用いて女性を救えとアングリマーラに教誡したのである。しかしかつて兇悪な殺人鬼であったため、「生まれてよりこのかた、いきものの命を故意に奪ったことがない」が真実のことばにはなりえないと考えた彼は、「そのことばには力がなく、女性を救えません」とお釈迦さまに訴える。するとお釈迦さまは、「では次のように言い換えよ」と再び諭した。
「ご婦人よ、私は聖なる者として生まれ変わってよりこのかた、いきものの命を故意に奪ったことがない。この真実のことばの力によりて、あなたとあなたのお腹の赤ちゃんに安穏あれかし」
果たして、彼がこのことばを女性にかけると、女性は無事に出産し、母子ともに健康であったという。このエピソードは取りも直さず、アングリマーラが釈尊の教化を受けて比丘になったことで、「生まれ変わっていた」のが真実であったことを示している。そうなのである。インド一般では「生まれ変わり、輪廻転生」といえば、物理的な生死を経てはじめて得られるものであるのに対し、〈諸行無常〉という理解に立脚する仏教では、その人の意のありように応じて瞬間瞬間(刹那の間に)生まれ変わることができるのである。そしてそのような仏教的な生まれ変わりを体験された方が、他ならぬ日蓮聖人であった。
「日蓮といゐし者は去年九月十二日子丑の時に頚はねられぬ。此は魂魄佐土の国にいたりて、返年の二月雪中にしるして、有縁の弟子へをくれば、をそろしくてをそろしからず」(『開目抄』)
われわれもお題目を唱えることを通して、「成仏たりうる者」へと瞬時に生まれ変わることができるのである。
(論説委員・鈴木隆泰)

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