オピニオン

2016年4月10日

期待のかけすぎは親子の隔てを作る

4月、新学期が始まった。乳児が入園する保育園は、泣き声に満ちている。親としばらく別れねばならない子どもは、不安でたまらないのである。慣らし保育を行っても、何週間も泣き続ける子もいる。「はえば立て、立てば歩めの親心」と言う。子どもを育てる場合、子どもに何かを期待するものであるが、立場・境遇によっていろいろな期待がある。
家康の『東照宮御消息』には秀忠の御台所崇源院に与えた子に対する期待が書かれている。「我侭の悪しき枝」を伸ばさないように刈り取り、誰に対しても「慈悲をかけ、贔屓・へんぱなく、賞罰をただしく」して、家臣を大事にする為政者になってもらいたいとの期待を明確に述べている。
福岡藩の儒学者で、本草学者の 貝原益軒は、家訓の中で、「幼きより、人を欺きいつわることを強く咎むべし」といい、人をあざむいたり、偽るような人間になってほしくないと、子どもへの期待を述べている。それには親が他人を欺くような生き方をしないことが大事であり、「周囲のものが、子供を知らで、その子の本性を傷なへる故なり。これを得さすべし、彼を与ふべしなどすかして誠無きことなれば、すなはちこれ、偽りを教ゆるなり」と、誠実さを育てるような教育が大事であると述べている。
益軒は儒者らしく、子どもばかりか子孫にまでも、誠実で信頼できる人間になることを期待しているのである。
益軒は『和俗童子訓』でも、子どもの時から、人を侮らず慈しむようにすべきで、他人に対して嫌悪を顕わにしたりすることがあってはならない。子どもがそのような態度を見せたなら、すぐ戒めなければならない、と親をいさめつつ、子どもには他人を尊重する心を持つことを期待している。
しかし、問題はそのような親の期待に、子どもたちが応えてくれるかというところにある。
日蓮聖人は『刑部左衛門尉女房御返事』の中で「親は十人の子をば養へども、子は一人の母を養ふことなし」「父母は常に子を念へども、子は父母を念はず」と言われている。母親は大勢の子どもの面倒をみ、保護をする。しかし独り立ちした子どもは、その恩を返すことがない。また、親は子どもに愛情をかけるが、子どもの方では期待を裏切り、親を慈しむことがない、と言われているのである。
親の期待が、子どもにとって重荷となることもある。一番身近かな期待は、高校・大学などへの進学である。私は高校に勤めていたことがあったが、教え子の中に、著名な生物学者の子息がいた。3年生になって、彼は悩んだ。父親が、「生物学をやったらどうか。関係書籍は所蔵しているし、これまで築いてきた人脈もある」と生物学の研究者になることを勧めたという。しかし、自分は、父親とは全く別の道を歩きたい、何故なら生物学では父親を超えられないだろうから、と言い、結局英文科に進学した。
この教え子は、父親から見れば、父の理想を裏切った親不孝者と言うことにもなろうか。
山鹿素行は『語類』の中で「父の子における究まり無き愛隣あるを以て、大小事、巨細の事まで、子の作法の残る所なからんことを欲してなにごとも切諫し、厳しく戒むる時は、父子の間必ず隔心出で来る」と言っている。
親の我が子への期待が強すぎると、かえって子どもに厳しく当たることになり、親子の心の隔てを作る原因となると言うのである。我々は上手に子に期待することが必要なのであろう。
(論説委員・丸茂湛祥)

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