オピニオン

2015年12月1日

児童虐待8万9千件という現実に目を向けよう 

厚労省は全国の児童相談所(児相)が2014年に対応した児童虐待の件数を発表した。それによると統計を取り始めた1990年度から24年連続で過去最多を更新したという。
実際ここ数年間の推移をみると平成24年度は6万6千件、平成25年度は7万3千件、そして平成26年度は8万8931件で、前年度から1万5千件も増加している。
この急激な増加の背景には、社会的な関心の高まりによる通報の増加のほか、虐待された子どもだけでなく、その場面を目撃したきょうだいも「心理的虐待」として対応するように自治体に通知したことも要因としてあげられる。また子どもの前で親が配偶者に対して暴行するという「面前DV」も、心理的虐待として警察から通告されるケースも増加しているという。
この虐待問題の背景を考える時、その家庭と養育を担う母親について留意しておかねばならない点がある。それは、虐待する親は不安定な精神状態にあり、特に母親が加害者となることが最も多いことである。
なかでも「経済的な困難」、あるいは「ひとり親家庭」などの要因は、母親の心身を不安定な状態へと向かわせることとなる。また「夫婦間の不和」もその要因となるが、そこにDV(配偶者間暴力)も加われば虐待の発生の可能性はより高まることになろう。
さまざまな背景と経過のなかで母親のこころは疲弊し「育児疲れ」が生じるが、一方では自身の弱さや困難を他人には見せたくないという心理も働き、結果的に親族や近隣の人たちからも孤立し、子どもに対して適切な養育ができなくなってしまうことも多い。
もちろん、このような虐待の増加に対して児相も手をこまねいているばかりではない。早期の対応を考え、7月には24時間つながる全国共通ダイアル「189」を設置した。この「189」は「いち早く!」と読める。つまり真っ先にこのダイアルを回してほしいとの思いが伝わってくる。しかしながら増加し続ける虐待に対して、児相だけの対応だけでは限界があることも事実である。
虐待に走る母親には、自身の成育史のなかで母親から愛情を持って育てられていなかった、また家族から「躾」と称して虐待を受けて育ってきた過去を持つ人も少なくない。この暴力で躾をするという「体罰肯定観」を持つ親は、今日でも少なからず、依然として存在していることも否定できない。
このような体験を持つ親たちは、自身が親になった時、自分の子どもを愛せない、自分が受けたように子どもをたたいてしまう傾向がみられるのである。
これがまさに「負の連鎖」といわれるものである。
この異常事態のなか、私たちはまず「関心」を持つことから始めなければならない。これは他者に思いを巡らすこころを持つことであり、その反対が「無関心」である。現代社会は無関心社会ともいわれ、周囲との人間関係を好まない人も多いが、それは都市部においてはより顕著な傾向として表れている。このような無関心社会では、子どもの虐待問題に歯止めをかけることは難しい。
母親たちへの行政の支援は急務ではあるが、一方では、身近に子育ての苦しさや不安を受け止めてくれる人の存在がなによりも大きな力となるのである。
今、私たちは法華経に示される「慈眼視衆生」の如く、慈しみの眼を持って母と子を見守り、そして、虐待の負の連鎖を断ち切っていかねばならない。
(論説委員・渡部公容)

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