オピニオン

2015年7月10日

現代社会の片隅で

日本国内の貧困率が拡大し、先進国ではアメリカに次いで世界第2位になったというニュースが頻繁に報道されている。貧困率とは可処分所得の中央値の半分(昨年は122万円)以下の収入しかない世帯の割合を指し、16㌫を超えた。そこでは子どもたちが朝食抜きで生活している。満足に食べられる食事は学校給食だけで、夕食はカップ麺一つというのが通例とも聞いた。給食のない長期休み明けには体重の落ちた児童生徒が増えるという報告もある。
食費に余裕がないとなれば、他の部分でもかなり苦労しているはずだ。案の定、高等学校では修学旅行費用の積み立てができない生徒が同じ割合でいる。高校生なら家計に理解もできるだろうが、児童たちは悲しいだろう。子ども向けのファッション雑誌が氾濫する時代だ。服装も気になるに違いない。
筆者が育った戦後間もない時期はかまどで煮炊きをし、薪で風呂を沸かせていたから薪割りが帰宅した子どもたちの日課だった。煙突掃除もさせられた。冷蔵庫はないから工夫して食料を保存したものだ。タライと洗濯板が必需品だった。服装はといえば従兄弟が着ていた中古だった。それが何も辛くなかったのは誰もが同じだったからだ。
昭和30年代になって電化が進み、数年のうちに全国に普及した。ほとんどが同程度の経済状態だったからだ。気がつけば、どの家にも電気製品が所狭しと置かれ「電化生活」が定番になっていた。その後、一億総中流などと言われ始めた。格差の少ない良い時代だと思っていたが、この時代に辛い生活をしていた人もいた。弁当を作ってもらえず昼食時間は校舎の屋上で水を飲んで過ごしていたという同級生の話を後に聞かされた時には申し訳ない思いで一杯だった。
悪い人が貧しくなるのではない。貧しいことは悪いことでもない。ただ、周りが当然のようにしていることができないのは悲しいだろうと思う。それが子どもならなおさらだ。
私たちは、毎日食事をいただくことで身体を養い、信仰を持つことで心を養わせていただいている。心も身体も表裏一体である。できることなら貧しい人たちに食を施したい。それが叶わないのなら「せめて」心の支えになりたい。が、そこですらお役に立っているという実感がない。
斎場で葬儀社の社員と立ち話になった。最近は葬儀の形態も変わったという話から、某寺の話題になった。生活保護を受けていた方の火葬の折、集まっていた遺族や親族が多いのに気づいた僧侶が「こんなに大勢親戚がいるのなら皆からお金を集めてしっかり葬儀料を払いなさい」と発言したそうだ。その場に居合わせた職員や葬儀社の社員達は唖然としたという。子どもたちに満足な食事を与えることもできないほどの赤貧生活をしている家庭に、多額の葬儀料を請求するという感覚はどこから生まれてくるのだろうか。
散骨や直葬に危機感を抱く寺や僧侶が今後の寺門運営を心配し始めている。墓を含めて供養など不要と言い切る人たちも増えてきた。仏教が死者の供養だけを目的とするものではないとはいえ、真剣に考えなければならないのだが、問題は今起きていることの要因に、僧侶に対する社会の批判が含まれていることに気づいていない点だ。
寺と僧侶に対する社会の評価は明らかに下がり始めている。これを看過すれば、仏教そのものの凋落にも繋がりかねない。その時、釈尊や宗祖になんと詫びたらいいのだろうか。
(論説委員・伊藤佳通)

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