オピニオン

2014年9月10日

死ぬまで生きる力

この夏、また私たちの記憶に残る痛ましい事件が、長崎県佐世保で起こってしまった。高校1年生の少女が、同級生を殺害し逮捕された。猫の解剖をした経験を持ち、一人暮らしをしていたマンションで友達を殺害。解剖目的で腹を切り開いた。次々と明らかにされていく事実は、残虐で憤りを感じる。
連日テレビのコメンテーターやカウンセラーはこれを分析し、ネットでは、本人のみならず家族、関係者の実名や写真など、個人情報が制限なく流れ、議論の矛先さえも迷走し、軌道修正が効かない状態である。様々なメディアというフィルターを通してモンスター化していく彼女の姿に、日本中の子を持つ親が震撼している。
犠牲者と、その家族や周りの方々の悲痛な思いは、計り知れない。しかし、こんな時こそ社会に秩序と共に成熟した態度を求めたい。というよりもそこを問いたいのである。そんな思いを持ちながら、私が本棚から久しぶりに取り出したのは、『「少年A」この子を生んで』1996年神戸の連続児童殺傷事件の犯人少年A(当時14歳)の両親が綴った手記である。当時この猟奇的な事件の原因として、両親の育て方や責任が厳しく追及された。この手記は、それを言明することが目的ではなく、少年の生きてきた14年の真実を綴っている。少年Aが書いた作文「懲役13年」の中で、自分の中に住んでいるもう一人の存在を、「魔物」と表現している。(以下抜粋)「魔物は、おれの心の中から外部からの攻撃を訴え、危機感をあおり、あたかも熟練された人形師が音楽に合わせて人形に踊りをさせているかのように俺を操る。人生において最大の敵とは、自分自身なのである。魔物と闘う者は、その過程で自分自身も魔物になることがないよう気を付けなければならない。深淵をのぞき込むとき、その深淵もこちらを見つめているのである」と書かれた文章を読んで当時の両親は、少年Aが、自分の犯した罪と不気味なほど冷静な自己分析の落差に「一体この子は何を考えているのか」という思いを募らせていた。
私たち人間は、2つの人格(自我世界)を心の中に持っていることを実感できるであろうか。一つは、自我という本来生まれ持った原始的で動物的な感情と生理的な欲求に基づいた人格である。もう一つは、社会的な存在としての自分が、どう行動すべきかという知性として認識される「規範的自我」「理想的自我」として現れる人格で、第2の自我と呼ばれる。この2つの自我世界を、様々な場面で互いに対話をしながら行動や思考を決めていく実感である。
これは、幼児期に著しく芽生え、思春期を迎えるころに様々な葛藤を経て備わっていく。この両方のバランスが人格に大きく影響する自我世界といわれる。私たちは、無意識にこの両方(者)とやり取りしながら折り合いをつけてやってきた。しかし、今社会では、「家ではいい子、外で暴れる子」という以前は見られなかった子どもの姿が問題となっている。親に気を遣いながら、外で抑えきれない自我を爆発させるといった自我世界の歪みはなぜ起こってしまうのか?
人間社会に大人も子どもも気付きの機会が失われてきているのではないだろうかと思う。ほとけの種は、すべての人間に備わっていると釈尊は法華経に説かれた。そして、その種は、教えを受け取り、教えの実践を通して人が自らの気付きを繰り返し、2つの自我世界を成熟させていくことが必要とされている。なぜならそれは、「死ぬまで生きる力」として、生涯自分を支え、他と共存していくことができる力となるのであるから。
(論説委員・早﨑淳晃)

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