オピニオン

2014年2月1日

宗教回帰の兆し

昨年の大晦日、除夜の鐘を撞く参詣者の姿を見て、若者世代の宗教回帰の兆しを感じた。
親や祖父母に手を引かれた子供たち、受験を控えた高校生や中学生のグループ、二十歳前後の若者たち、あるいは恋人同士と思われるカップル等々、世代も性別もさまざまであるが、ほとんどすべての人が、鐘を撞き終わった後、余韻に耳を傾けながら合掌し、一心に何事かを祈っているのである。そして、お守りを渡すと、「ありがとうございます」と、素直な言葉を返してくれるのである。
旧年中に身に纏わり着けた百八種類の煩悩の垢を洗い流し、清浄な心で新年を迎えるという意味を、すべての人が心得ているわけではないだろう。合格祈願や当病平癒、家内安全などを祈りながら鐘を撞いている人も多いと思うが、梵鐘の余韻に浸るときは、誰でも身の清まる思いを体感しているのではないかと思う。現世利益を招き寄せるためには、自らが心身清浄であることが求められていることを、暗黙のうちに了解しているのではないだろうか。
戦後の経済成長と近年の急激な情報化、そしてグローバル化の風潮の中で、伝統的な文化が置き去りにされ、日本人が長い年月をかけて培ってきた精神的な基盤がゆらぎ、失われつつあることに危惧の念を抱く人が増えてきたように思う。雑多な情報や刺激の過剰な現代社会の在り方に、このままでは人間の本質が歪められてしまうのではないかとの危機感を感じている人が多いのではないか。
経済のグローバル化は、文化のグローバル化と連動している。経済的強者の文化が経済的弱者の文化を凌駕し、情報強者が情報弱者を駆逐する。グローバリズムが進めば、親と子の絆を離断し、伝統や先祖供養の習慣も希薄にさせる。グローバリズムによって日本人の寄って立つ基盤を喪失することへの不安が、人を宗教的、霊的なものに近づけるのかもしれない。
日本では戦後、非宗教化に大きく舵が切られた。お墓参りや法事をしない世代が現れ、最近では葬儀さえもせずに亡き人を見送ることが少なからずあると聞く。しかし、東日本大震災は、図らずも先祖と現世に生きる者との絆の大切さを再認識させた。動植物のみならず、草木国土すべてのものと人間との絆の大切さを再認識させた。これらすべては、物質的な次元の事柄ではない。霊的な次元の事柄である。
人は宗教なしには生きられない。にもかかわらず、合理的でない、科学で証明できない、等々の理由で宗教を遠ざける風潮が近年の傾向であった。しかし最近、伝統宗教や霊的なものへの回帰が起きていると感じる。
宗教的な情操は、身近に宗教的な人がいれば自然に身に着くものである。神仏に一心に手を合わせるお年寄りがいれば、子どもはその姿形を見て育ち、やがて成長するに従って祈る心の何たるかを理解するようになる。祈りのある空間が清浄なる霊的な場になることを体感するようになる。
伝統芸能が再興され、墓参りが盛んになってきている傾向を「再宗教化」と表現した人がいるが、この再宗教化の流れを過たずに正しく導く必要がある。
多くの人が心の奥底に秘めている「苦しみとは何か」「欲望とは何か」「本当の心の安らぎとは何か」「幸福とは何か」といった根源的な問いへの答えが、仏教に用意されている。その答えの肝心要である「お題目」を伝え弘める意義は、益々大きくなっていると言えよう。
除夜の鐘を撞きながら、純真な祈りを捧げる老若男女の姿に、宗教回帰の確かな兆しを感じた。
(論説委員・柴田寛彦)

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