オピニオン

2013年3月10日

持っている力を社会に

身延山大学東洋文化研究所が10年以上に亘って続けているラオスでの仏像修復活動に当初から関わらせていただいている。それ以前からラオス政府との人脈があったのを見込まれてのことだ。ラオス情報文科省遺産局との最初の調印式には当時大学長であられた故浅井円道先生が自らお越しになられた。ご本人と大学の決意の表れだろう。
活動の場となっているのはラオス人民民主共和国ルアンパバーン県の世界遺産地域である。ここの35ヵ寺で1,174体の仏像調査を既に終え、世界で初めての仏像基本台帳を作成した。想像を超えた破損状態であったという。
仏像修復に取りかかるについても、その材料や機材の全てを日本から持ち込むのではなく、なるべく現地で調達したいのは、このプロジェクトがいずれ現地の人たちの手で続けられるようにしたいからだ。国際協力活動の基本でもある。
ところで、このような活動に疑問を抱く方も多い。「なぜラオスの人たちが自分で修復しないのか」「仏像をもっと大切にできないのか」等々である。まして熱心な上座部仏教国で国民の殆どが信者であるとなれば、不思議に思われるのも当然だろう。
これにはラオスの置かれてきた立場も理解しなければならない。長い間続いたフランスによる植民地時代には識字率が僅か2パーセントに過ぎなかった。その後もインドシナ全体を巻きこんだ戦争でフランス、アメリカなどに半ば支配され、1975年のパテトラオの勝利による革命で初めてラオス人の教師だけによるラオス語のみを使った教育が始まったに過ぎない。それでもまともな校舎は皆無に等しく、全国で必要だといわれている8千の村のほぼ半数の小学校に曲がりなりにも校舎が整ったのはつい最近である。
教育は読み書き算盤だけではない。文化遺産を守ろうという意識もまた教育から始まる。身延山大学では今、修復作業に携わる現地の人材育成にも力を入れている。諦めることしかできなかった破損、盗難から仏像を自らの手で守ろうという動きが、今始まっている。
この活動を支援するためのサポーターズ・クラブを発足したのは3年前である。皆様へのご案内の発送が東日本大震災の発生と前後したために周知には至っていないが、それでも毎年100万円を仏像修復製作室にお届けできている。今は国内の事で手が一杯で外国のことなど考えられないという中で、敢えて会費や寄付金をお送り下さる方々に感謝している。
確かに今、国内に解決すべき問題は多い。先頃も子供たちの15パーセントが貧困家庭で育っているという情報を得たばかりだ。日本でのことだ。定時制高校に通う生徒の中には、夜間に出る給食だけが一日の食事だという例もあるというから驚いた。しかし、国内に問題があるから海外への支援は不要というわけにはいかない。国内外に分ける必要もない。できることにできる人が参加するというのが望ましい。
身延山大学では更に、柳本伊佐雄教授の指導の下、陸前高田市、仙台、福島の寺へ悲母観音像、慈母観音像、釈尊座像のそれぞれを送るべく製作を続けている。有難いことに外部の多くの方々も工房を訪れ、復興を願ってノミを入れておられるという。まさに心の救援活動と言うべきだろう。
日蓮宗僧侶や檀信徒が、それぞれ得意ところで力を発揮すればその公倍数が日蓮宗の力になる。様々な場面で社会に出よう。

(論説委員・伊藤佳通)

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