ひとくち説法
2019年3月20日号
慈父・悲母
一人前の親に育て上げることを目的とする、米国生まれの〝親業訓練〟が、静かに広まっている。「父となり母となる」のに、訓練が必要だろうか。ただ「しつけ」と称し、親が虐待を繰り返した果てに、子どもを死亡させた事件などを耳にした時、「訓練も必要だ」と感じるのも確かである。
仏教用語の「慈悲」を基にして、「慈父・悲母」と呼ぶ場合がある。父・母を敬愛しての表現で、〝慈〟は楽を与えること。〝悲〟は苦しみを取り除くことの意味。父・母に当てはめると、夫々の役割が見えてくる。否、このご時世、役割は拘らない。「子に楽を与え、子の苦を取り除く」のが親の大事であり、子から敬愛される所以なのだ。お釈迦さまは、私たち衆生を「わが子」と仰られ、「わが子を救い護るのは自分だけ」と大慈悲を示された。私たちも、この親に習って、〝慈悲ある人〟に成るよう励まなければならない。そのために、お釈迦さまを敬愛することが肝心である。
(北海道北部布教師会長・中村啓承)
2019年3月10日号
「身近にいるほとけ」
今年も雪が多い年だった。雪国の人はご存知だろうが、暖かくなると道路の雪も緩んでザラメ状になる。その結果、車はまるで砂の上を走っているような状態になり、タイヤが道路にできた溝にはまって動きが取れなくなることもある。
お檀家のお勤めを終えた自分の車もその状況に陥り道を塞いでしまった。まもなく大きな車がそばまで来た。運転者がおりてこちらに近づいてくる。見るからに強面の、私たちとは違う世界の人という感じの人だ。「まずいな」と思ったが、その方は「こりゃ、だめだな」というと、車の後ろに回って押し始めてくれた。ようやく溝から脱出することができた。見るとその方のズボンはタイヤに飛ばされた雪に汚れていた。深く手を合わせ、お礼を述べたのは勿論だが、一瞬、外見でその人を判断した自分を恥じた。
どんな人にも仏になる種があり、導くほとけさまは身近にいると感じることのできた出来事だった。
(北海道南部布教師会長・山本光明)
2019年3月1日号
お彼岸には…
まもなく春のお彼岸がやって来ます。お彼岸とは、お中日を中心に前後3日間仏道修行をする期間です。仏道修行といっても何も難しいことはありません。日常生活を見つめ直して自分の行いを反省することも、立派な仏道修行になります。
簡単な仏道修行のひとつ。「和顔」といって、笑顔で人と接すること。あなたが笑顔でいると、相手の人が安心するでしょう。つまり相手の人に安らぎを与えたということで、あなたは功徳を積んだことになるのです。あなたも相手の人も幸せな気持ちになれるということ。こんな簡単なことからお釈迦さまのお導きをいただける、ありがたいではありませんか。
さあ、まずは笑顔でお彼岸の1週間をがんばりましょう。お釈迦さまや日蓮聖人が守って下さっていることを実感できるはずです。そして、お寺にも来て御本尊に手を合わせて下さいね。そうすることで積んだ功徳はより一層、花開くのです。
(北海道西部布教師会長・水谷寛斎)