書評
2014年4月1日
『法華経の輝き―混迷の時代を照らす真実の教え』
『法華経』全28品の教えを分かりやすく解説した『法華経の輝き―混迷の時代を照らす真実の教え』(楠山泰道著)が発行された。
オウム事件と真正面から取り組んできた著者は、カルトの怖さを知ると同時に、既存の宗教が人々の期待に応えていなかったという厳然たる事実に思い至る。いま僧侶としてなにをすべきなのか著者は思い、再び自身の原点でもある『法華経』を繙いたという。そして、日蓮聖人の宗教については、「実践の中で人びとに絶対的安心を与え、教え導くことを志向。南無妙法蓮華経とは、慈悲と誓願を通しての利他行の象徴」と語る。混迷の21世紀にあって必要なものは、正しい教えと正しい行いである。
後半では「オウム真理教事件」の随想を収録。事件を振り返ることで、真実の教え『法華経』の輝きがいっそう浮き彫りとなる。巻末にはカルト対策用「参考資料」がついていて、身を守るための「危機管理対策の確立」を促す一書でもある。
(大法輪閣 本体2000円+税)
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『妙法蓮華経和讃解説本』
岡山県和讃会事務局から『妙法蓮華経和讃解説本』が発刊された。著者は瀬戸内市妙興寺住職の岡田行弘師。本書に掲載されている和歌は、立正大学北川前肇教授が数ある法華経和讃から28品選定したもので、岡田師が平成21年から3ヵ年に渡り岡山和讃会で解説した。
法華経は古来、文学や文化と深い関わりがあり、数多くの和歌に詠まれている。当時の歌人や法師らの法華経文化に対する思いや理解が和歌という短詞に込められており、法華経を信仰と文学の造詣がないと解説できない。岡田師の力量が分かる解説書だ。
岡山和讃会では、熱心に活動を行い、歌の意味を十分理解しようと岡田師を講師に9回にわたり勉強会を開いてきた。毎回100人前後の参加者があったというから、盛んな様子が窺える。本書発行に協力した静岡中部法華和讃振興会の「和讃は一つ」という言葉は、心に響く。
和歌という文学から法華経を理解しようとする試みはなかなかない。わかりやすく解説されているので、読み物としてもおすすめ。(岡山県和讃会事務局発行 本体500円+税)
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『事典 日本の仏教』
『事典 日本の仏教』(蓑輪顕量編)が発刊された。
従来、事典は歴史的な観点か仏教学的観点のどちらかの分類に焦点をあてて解説されたものが多いが、本書はそのどちらをも網羅する。たとえばある人物を中心にすれば、その人物が生きた時代を浮き上がらせるが、それは個別のつなぎ合わせの歴史を描くことになる恐れがある。
「もっと時代に連動した仏教のもった教理的な特徴やその展開を浮かび上がらせられないか」との思いから、思い切って人物に項目を立てることは避け、各時代の特徴と考えられる事象を示す用語を選び出し、解説を加えている。
インド、中国を経て渡来した仏教は日本で独自の文化的背景に影響を受け、新たに展開した。仏教を読み解くのに必要な歴史的な解説のみでなく、教理や思想の内面にまで踏み込んだ、読み物としての事典。また、執筆者には若き研究者の意欲的な見解も示してあり、好著である。(吉川弘文館発行 本体4200円+税)
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