2013年11月1日
『被災地で 生きる 見る 思う』
2011年3月11日、甚大な被害をもたらした東日本大震災で各地のお寺が避難所として開放されたことは、各メディアでも取り上げられている。
このたび刊行された『被災地で生きる 見る 思う』の著者は、被災地・石巻市法音寺の住職であり、当時は避難所としてお寺をいち早く開放、被災者を受けいれた。未曾有の災害のなか、お寺としてできることを極限の状態で体験したことをドキュメントタッチで避難所寺院の記録として一冊にまとめた。
前編は当時の体験談を中心に、後半は教誌『正法』(日蓮宗新聞社刊)に連載した、今なお震災の爪痕と戦う現在の姿をまとめたものだ。
「震災の風化を危惧する声を耳にする。自分自身も、平穏な美しい海を目にすると、おぞましい体験も忘れそうになる。なぜ自分が生きている時代に大震災に襲われたのか、答えは当分出そうもない」(本書「はじめに」より)。「我々宗教者は(途中略)それなりに信頼をされ、非常時にはさまざなことを任されることが予測される。(途中略)人のためにできることを行う、という覚悟を持っていれば、非常時にできることは湯水のごとくでてくるはずだ」。今回の震災を通じて、宗教者に求められるものを改めて見つめ直した著者の苦悩や未来へ向かう姿が私たちの心を打つ。大きなことはできないが、まずは、平時の心の備えから、はじめてみよう。
なお、本書の販売価格の半分(500円)は法音寺を通じて震災で移転再建される石巻市立渡波小中学校に寄付される。
(石巻市法音寺刊 新書判 モノクロ 160頁 定価1000円)