ひとくち説法
2024年2月1日号
「あれ」についてあれこれ
令和5年の流行語大賞は『アレ(ARE)』だった。阪神タイガースの岡田彰布監督は、「優勝」と言葉にすると選手が過剰に意識するため「アレ」と言ったという。
直に言わず「隠喩」や「見立て」、あるいは「気遣い」や「忖度」に重きを置き、奥ゆかしさを尊ぶのは日本の文化によくあることだろう。
しかし、チームメイト内ならいざ知らず、「あれ」に頼りすぎて必要な伝達が疎かになることはいささか問題である。求めるにせよ伝えるにせよ、しっかりと言語にしなくては伝わらない。
法華経には「椎鐘告四方」「周聞十方國」と説かれ、先師は「音吐遒亮に文句分明なるべし」と遺されている。「解ってくれるだろう」と安易に略すことなくきちんと伝えることを心掛けたいものだ。
もし、お釈迦さまが霊鷲山で「あれをこれすれば」と説かれていたなら……………剣呑、剣呑。
■煩悩即菩提
昔はバナナやメロンは高級品で滅多に口にすることができなかった。食べられるのは病気になった時くらいだった。しかし今はスーパーの特売品でも販売され身近になった▼バナナが食べたくてたまに買ってくるが、じきに真っ黒になってしまう。だがバナナ好きにいわせると真っ黒なのが食べ頃なのだそうだ。そう聞いて食べてみると、確かに甘く、とろりとした食感で美味しかった▼輸入のバナナは木に生えている青い状態で収穫される。輸入する際には虫などの病害の問題で青い状態でないと駄目らしい。青いままでは堅いし、甘くもなく、食べられたものではない。しかしここでひと手間。密閉された倉庫の中でエチレンガスを使い追熟させる。すると私たちがよく目にする黄色く甘いバナナになる。キウイフルーツも同じ方法で追熟させるとか▼そのままでは食べられない果物に渋柿がある。古歌に「人はどうする心の渋を柿は一夜の湯でぬける」とある。渋柿はそのままでは食べられないが、一晩湯につけたり、干したり、焼酎に漬けるなどひと手間かければ良い甘さになる▼人の心の渋、すなわち煩悩もお題目という手順を増やすだけでそのまま悟りへと変わる。悩み多きこの時代、私たちの心も煩悩だらけではなかろうか。煩悩が深いほど悟りも深いものになると信じてお題目を唱えよう。煩悩即菩提なのである。 (友)
2024年1月20日号
クラムボン
表題の「クラムボン」は、宮沢賢治の童話『やまなし』に出てくる不思議な言葉…。
時は5月、クラムボンが漂う水底で、幼いカニの兄弟が突然のカワセミの襲来に驚き、自由に泳ぐ魚の命を奪う姿に恐怖します。暫く経って12月、カニの兄弟は成長して、自分の吐く泡ぶくの大きさで喧嘩を始めます。とそこへ、またドブンと襲来が! 一瞬にして恐怖が蘇ります。でもそれは木から落ちてきた「山の梨」でした。驚いたお陰で喧嘩はおさまり、水の中で山の梨は、いい香りを振りまきながら、父さんカニのお酒になっていきました。
5月は「自利」12月は「利他」のお話。賢治の法華経信仰に基づいた、「奪うことより周りに幸せを与える生き方をしたい」というメッセージが込められています。でもクラムボンは、賢治の創造した言葉。今でも答えが出ず、読者の想像を掻き立てる言葉です。ぜひ原作を味わってください。(東京西部布教師会長・山形教亨)