ひとくち説法
2023年4月20日号
歩み寄りで変わる世界
昨年9月、信行道場を無事に終えた弟子である息子を迎えに身延山の信行道場まで行きました。
信行道場を出てきた弟子の姿を見たとき、中学校の制服姿で初登校した時の光景と、その1ヵ月後に「お父さん、何でぼくにだけつらく接するの」といわれた一言を思い出しました。弟子の初登校を見た日から喜ばしいのに、何をやっても怒るばかり。そんな時にかけられたのがその一言だったのです。その言葉を聞いたとき、私は自分が無自覚に巣から子どもを追い出す獣になっていたことを知りました。
原因が分かったので、これ以後は私から歩み寄るように心がけ、弟子とのギスギスした関係は劇的に変化していきました。
父親と息子の仲が良くないことは、ままあることです。そんな時は父親の方から少し歩み寄ってみてください。世界が変わります。仏さまの世界に。
(愛媛県布教師会長・讃岐英昌)
2023年4月1日号
いのちに合掌
「認知症にはなりたくない」といっていた私の母だったが、レビー小体型認知症になり、介護を受けた。亡くなる前日、「遅くまでお疲れさま。お先に失礼します」と私に別れを告げ眠ったまま旅立っていった。
中島京子著『長いお別れ』という小説は、アルツハイマー型認知症の父親を10年間介護する家族の絆がテーマの小説だ。認知証のことを「長いお別れ」というのは、老いた親が少しずつ記憶をなくして、ゆっくりお別れするからだ。記憶は失っても家族愛、絆は失われないと教えてくれる。
人間いつかはこの世にお別れする日が来る。仏さまの子として両親の許に生まれ、いただいた〝いのち〟で、家族や社会のなかで修行してより良い世界を築きながら生きて、最後は仏さまの許に帰っていく。自分のいのちも、人さまのいのちも、生きとし生けるもののいのちも、全てその役目がある。だから互いに合掌し合うのだ。
(全国布教師会連合会長・鈴木浄元)