論説

2022年12月20日号

孤立の予防とつながりの回復

教誨師とは、全国の刑務所・拘置所・少年院などの矯正施設において被収容者に対し、各教宗派の教義に基づき、対象者の徳性を涵養し、心情の安定を図り、人間性を回復するよう対話と働きかけをする宗教家をいう。各教宗派から推薦された教誨師は1800人をこえ、うち約130人が日蓮宗僧侶である。
日蓮宗教誨師が所属する施設には日蓮宗新聞社から『日蓮宗新聞』が寄贈配布されている。本紙は矯正教育に携わる担当教官も活用している。本紙11月1日号の「鬼面仏心」は(友)師の執筆。タイトル「認め合う」が筆者の所属する少年刑務所で教材として使われた。時間効率の悪い移動手段、頭の悪い人や不器用な医師を例に挙げ、いずれも大切な発見や大事な気づきを得たこと。釈尊が方便という遠回りをして真実にいたらしめたのは、人の数だけ価値観や理解力が異なることを覚知され、1人ひとりに向き合われた教化であったなどの示唆に富んだ内容が、若年受刑者の矯正教育に用いられた所以であろう。
また日蓮宗教誨師会(堀智仙会長)では受刑者の改善更正を趣旨に日蓮聖人降誕800年を記念して出版された『あなたは尊い~残念な世界を肯定する8つの物語』(徳間書店刊・漫画やじまけんじ・監修佐渡島庸平×日蓮宗)を本宗教誨師が所属する施設へ寄贈することとした。出版に携わった日蓮宗宗務院の降誕800年担当課長太田順祥師は「読者にはお祖師さまの生き方を通し、自他が生きている事実を噛み締め、いのちを見つめ、生き方を問うてほしい」と語る。
犯罪や非行に走る背景の1つに人との触れ合い、人間関係の乏しさがある。日常生活や社会生活の営みの中で、見えない部分に孤独は潜みさまざまな孤立を生み痛ましい結末をたどる。海外の研究では社会的つながりが弱まることは1日15本の喫煙をすることと同様の健康被害があるともいわれる。
平成28年から厚生労働省の社会福祉推進事業を通じて「ひきこもり」の長期高齢化について調査・研究を行っている愛知教育大学の川北稔准教授によると「ひきこもり」は社会的孤立の中でも「所属」(仕事や学校)と「交流」(人との会話など)の双方を失っている状態と定義づける。ややもすると親元で暮らす若者のイメージがあるが、単身者なども含め、種々のライフスタイル・年齢層の孤立に目を向ける必要があると指摘する。
例えば妊娠・幼児期では孤立した育児や母親の抑うつ、虐待やネグレクト。児童・青年期には、いじめやヤングケアラー、若年無業者。壮年期の失業、老親介護、介護離職、夫婦関係の破綻。老年期には離死別や身体の衰えなど、ライフコースを通じた孤立のきっかけと課題がある。
川北氏は孤立の深刻化を防ぎ、つながりを回復するヒントとして、依存先の分散を挙げ、東京大学先端科学技術研究センターの熊谷晋一郎准教授の言葉を紹介している。「家族だけで課題に向き合うのではなく、頼れる相手や場を増やしていくことが依存先の分散」「自立は依存先を増やすこと、希望は絶望を分かち合うこと」とも熊谷氏は語る。
一方で現代ほど社会福祉が普遍化・一般化している時代はなく、最低基準から最適基準の社会福祉が議論されているという。
最適基準は個々人によって違うが、私という存在が地域共生社会の一員としてたとえ1人であっても見守りつながり続けることができるならば未来に生まれる「いのち」をも守ることになるのではあるまいか。
(論説委員・村井惇匡)

illust-ronsetsu

2022年12月1日号

金原明善翁の没後100年を迎えて

「衆生病むが故に我もまた病む」『維摩経』。この維摩居士の言葉には他者の痛みに深く共感し、他者に寄り添い支え合って生きることが示されている。
3年にわたるコロナ禍は、私たちの生活や仕事、さらには心理面にもさまざまな影響をもたらした。いまこそ人びとの苦悩に共感し、寺院や僧侶が仏教の教え、実際の行動をもって社会や人びとの役に立つべき時だ。
日蓮宗の宗制(※決まりごと)には、「本宗の寺院、教会、結社並びに僧侶は、社会の要請に応え得る社会教化事業又は活動を行わなければならない」とあり、民生、児童、社会福祉、及び教誨、更生保護、補導に関するもの、青少年育成や救援活動など、多様な社会活動が謳われている。
これらの中で例えば更生保護事業に携わる保護司は、法務大臣から委嘱を受けた非常勤の国家公務員である。その活動は犯罪や非行をした人に対して更生を図るための約束ごとを守るように指導し、生活上の助言や就労の援助などを行ってその立ち直りを助けるものである。他者に寄り添う、抜苦与楽の慈悲の精神にも適う活動といえる。最近は再犯防止ばかりか、犯罪予防にも取り組み、安心・安全な社会を築くための一助を担っている。
筆者も長年保護司を務めてきたが、日蓮宗には僧侶で組織する「日蓮宗保護司会」があり、所属する全国の保護司はおよそ150人。同会に所属していない保護司や檀信徒の中にも相当数の保護司がいると思われる。
この更生保護事業に取り組んだ先駆者の1人に法華経の信徒、金原明善がいる。明善翁は、天保3年(1832)6月7日に現在の静岡県浜松市東区安間町の素封家に生まれ、その遠祖は日蓮聖人から直接に教化を受けた信徒、金原法橋であるという。明善翁は明治7年から私費を投じて天竜川の治水、さらに上流域の植林などで多大な貢献をなしたことで世に知られる。
郷土の産業開発としては天竜運輸、天竜木材、金原疏水財団など社会公共事業にも足跡を残し、さらに北海道開拓の支援、身延山の植林などと、事業の数は枚挙にいとまがない。
一方、私財を投じて出獄人保護事業や済生会事業にも力を注いだ。法務省のホームページの「更生保護の歴史」の項には、「近代的な更生保護思想の源流は、明治21年に金原明善、川村矯一郎を中心とした慈善篤志家の有志が、監獄教誨と免囚保護を目的として設立した静岡県出獄人保護会社に求められます」と記され、先駆者としての明善翁の名と写真が掲載されている。
今年は明善翁が大正12年(1923)1月14日に92歳の人生を終えて、没後100年にあたる。法号は天龍院殿明善日勲大居士である。
そこで、日蓮宗保護司会では明善翁の事績を顕彰すべく、去る6月に静岡市の本山海長寺で総会を開催し、中條日有貫首が記念講演をした。翌日、浜松市内の明善翁記念館を訪問し、菩提寺である妙恩寺の墓前で参加者一同法味を言上して百回忌の供養を営んだ。
世の悩み苦しむ人びとに共感し、治山、治水事業を通して民衆の苦難を救い、罪を犯した人には更生の道を開き、社会奉仕、公共の事業に全生涯を捧げた明善翁。まさに不言実行の人である。今日、没後100年にあたり、その崇高な志と行動力に学んで寺院も僧侶も日々の信仰生活と共に、それぞれの立場で社会的な活動に取り組むことを期待したい。
法華経に説く「この人世間に行じて、よく衆生の闇を滅す」との菩薩行の如く、世のため人のために身をもっての実践が待たれよう。(論説委員・古河良晧)

illust-ronsetsu

side-niceshot-ttl

写真 2023-01-13 9 02 09

新年のご挨拶。

過去の写真を見る

全国の通信記事

  • 北海道教区
  • 東北教区
  • 北陸教区
  • 北関東教区
  • 北関東教区
  • 千葉教区
  • 京浜教区
  • 山静教区
  • 中部教区
  • 近畿教区
  • 中四国教区
  • 九州教区

ご覧になりたい
教区をクリック
してください

side-report-area01 side-report-area02 side-report-area03 side-report-area04 side-report-area05 side-report-area06 side-report-area07 side-report-area08 side-report-area09 side-report-area10 side-report-area11_off side-report-area12
ひとくち説法
論説
鬼面仏心
購読案内

信行品揃ってます!

日蓮宗新聞社の
ウェブショップ

ウェブショップ
">天野喜孝作 法華経画 グッズショップ
">取扱品目録
日蓮宗のお店のご案内
">電子版日蓮宗新聞試読のご登録
">電子版日蓮宗新聞のご登録
日蓮宗新聞・教誌「正法」電子書籍 試読・購入はこちら

書籍の取り扱い

前へ 次へ
  • 名句で読む「立正安国論」

    中尾堯著
    日蓮宗新聞社
    定価 1,365円

  • 日蓮聖人―その生涯と教え―

    日蓮宗新聞社編
    日蓮宗新聞社
    定価 826円+税

書評
正法
side-bnr07
side-bnr07