2022年10月13日号
立正大学仏教文化講座
立正大学仏教学部は10月13日、仏教文化公開講座「未来へつなぐ法華経の世界」を同大学品川キャンパス・ロータスホールで開催した。毎年、日蓮聖人御命日にあたる同日に開かれる同講座はコロナ禍でオンラインのみで開講されていたが、3年ぶりに聴講者を迎えて行われた。
第1部のお会式法要に続き、第2部の講座ではまず同学部教授の原愼定師が「日蓮聖人の法華経信仰―未来記の思想をめぐって」と題して講演した。原教授は法華経の特徴として未来に向けた予言的な言説が多く見られることから、同経を日蓮聖人と同様に未来記と位置づけた。そこで日蓮聖人は『開目抄』で同経に示された未来記の経文を基準としてご自身の法難体験と照合され、確かに実証し得たことから信仰的認識を高められたと原教授は説明した。このことから、経典は釈尊が体得された真理に基づく智慧と慈悲に関する言行録として共有され、それを主体的意に受け継いだ先人の経験値と価値観によって裏付けされていると話し、歴史的に受け継がれることで末法の人びとにも前向きに生きる勇気と希望を与え続けるものが「未来記」だとした。また日蓮聖人はご自身を崇拝の対象とされることを望まれておらず、門下にも久遠の菩薩行を継承する覚悟をもつことを嘱望されていると語った。
続いての「法華経研究の現在と未来」をテーマに行われたパネルディスカッションではパネリストとして大正大学総合仏教研究所伊久間洋光研究員、鶴見大学仏教文化研究所の宮崎展昌准教授、同学部の庄司史生准教授が登壇し、主に法華経の梵文写本について報告した。
庄司准教授は梵文法華経写本の研究史や分類、ネパール写本が数多く現存する理由について述べ、今後の課題として近代仏教学における法華経研究は新たな写本の発見や、資料のデジタル化、テキストデータベース化が進んだことから新たな時代の研究がなされるべきとした。伊久間研究員は複数の古写本間の比較を通じて、失われた祖本の構築を目指すことや、20世紀初頭に発刊された「ケルン・南条本」と呼ばれる梵文法華経校訂本は今日でも最も優れたテキストとしながらも、ネパール系写本に基づく校訂に時に注記なしで中央アジア系写本の読みが入れられている問題点もあることから、来るべき新校訂本作成のために各写本の正確な翻刻が立正大学法華経文化研究所などから出版されていることを案内した。また庄司・宮崎両准教授らが新校訂本への道筋をつけるための共同研究の開始を報告した。
宮崎准教授はオンラインリソース(研究基盤)や大乗経典諸本対照テキストが掲載されているサイトを紹介。自身の夢としても法華経全体をカバーすることや、諸本・異本が現存する仏典を広く収録させたいと語った。
意見交換が行われた後、庄司准教授が「たくさん蓄積されている法華経研究の方法などをほかの大乗経典に当てはめることにより、新たな研究も出てくるのではないか」と期待した。