論説

2022年6月20日号

立正大学開校150周年を祝す

今年、立正大学は開校150周年を迎えた。これにあわせて新学部の設置を始め、教育、研究分野の充実はもとより、『立正大学正史』の刊行、教育、研究施設や小ホール、ギャラリー、特別展示室を備えた150周年記念館の建設、日蓮聖人像、第16代学長・石橋湛山銅像の建立、熊谷キャンパス再整備事業、学生起業支援プログラム、さらにスポーツ分野でも大学駅伝への参入など、多彩な記念事業やイベントが展開されている。
立正大学の淵源は、442年前の天正8年(1580)に設けられた日蓮宗僧侶の教育機関である飯高檀林に遡り、その後、明治5年(1872)東京都港区の承教寺に日蓮宗小教院が設置され、以来150年、現在は9学部、16学科、7研究科、1万人の学生を擁する総合大学に発展してきた。
この間を貫く教育理念は仏教精神による人間形成であり、建学の精神に謳われる「真実、正義、和平」は日蓮聖人が著わされた『立正安国論』に説かれる立正精神そのものといえる。
宗門の憲法ともいえる「宗憲」には行学の場として立正大学学園が挙げられ、日蓮宗の教育規程には、「本宗の教師養成機関は立正大学及び身延山大学」と謳われ宗門の教育機関としての位置づけがなされている。
一方、立正大学学園の寄附行為の第5条には、「この法人に総裁をおき、日蓮宗管長をもってこれにあてる。総裁は、この法人の創立者日蓮宗を象徴する」と明記されており、宗門僧侶の教育を通して宗門と大学とは長い歴史と伝統があり、それを主に仏教学部が担ってきたのである。今日、こうした伝統を有する1万人規模の総合大学の存在は、東京や関西の他の仏教系大学とそれぞれの宗門との関係を見ても、日蓮宗にとってその社会的意義は実に大きい。しかし少子化や人口減少が待ったなしで進行する現在、全国で600校以上ある私立大学の経営は厳しく、4分の1が慢性的な経営赤字に陥り、定員割れも4割に上る。デジタル化やグローバル化など時代の変化に対応する教育の実現には安定した財政基盤が欠かせず、教育面とともに経営面での改革がまたれる。
こうした中、将来に向けて考えるべきは教育、研究の充実による本学の魅力、特色作りであり、それによる他大学との違いを鮮明にすることである。一方でさまざまな分野にわたる社会への貢献も求められる。学園の寄附行為には「真実を求め人類社会の和平の実現を念願する立正精神に基づく教育を行い、有能な人材を育成することを目的とする」とあり、社会の平安と人びとの安寧を実現する人材の育成こそが本学の使命と考えられる。また仏教系総合大学としての特性を活かし、例えば仏教学部と心理学部との教育、研究の連携など他学部間との交流連携をはじめ、他大学には見られない立正大学独自の特色を発揮してもらいたい。
新築の150周年記念館は、学生が楽しく有意義な大学生活を送るための施設整備の一環といえる。現在、その特別展示室では開室記念として「海外仏跡調査展」が行われており、将来、多様な展示を通して学生や学内関係者ばかりか、一般の人も足を運んでもらえる社会との窓口ともなるだろう。今後、少子化時代に備えた中長期計画を策定し、魅力ある大学作りに関係者の一層の努力を期待するところである。8年後には飯高檀林開学450年を迎える。屈指の伝統と、近未来をリードする革新性とが相俟って社会に寄与する大学として永続的に発展することを祈念し、ここに開校150周年をお祝いしたい。
(論説委員・古河良晧)

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2022年6月10日号

弾圧を乗り越えた先聖

日蓮聖人は、32歳の建長5年(1253)4月28日を起点として、自己の生命をかえりみられることなく、末法の世の人びとが大恩教主釈尊の救いにあずかれるように、お題目を唱える信仰を勧奨されてきました。すなわち、聖人の出家の目的は、釈尊のご本意をしっかりと受けとめ、そのご精神を末法の人びとに対して大灯明としてかかげることでありました。つまり、聖人は「智者」となることを目指されたのです。
しかし、聖人の題目弘通のあり方に対して、多くの法難が待ち受けていました。ことに、東国の鎌倉に幕府を構える北条政権は、40歳のときに伊豆国へ流罪に処し、50歳のときには、北国の佐渡国へ配流し、聖人のみならず、弟子、信徒にまで宗教的弾圧を加えたのです。
聖人は、50歳から53歳までの数えの4ヵ年を幕府の監視のもと、佐渡において、流人として過ごされます。今日から、750年も前です。
このように、佐渡の厳しい境遇の中にありながらも、32歳からの法華経弘通、そして題目受持の生活を回顧されつつ、「今日切る、あす切る」(『報恩抄』・昭定1238頁)という生命の危機に直面されながら、長編の『開目抄』、そして聖人の全存在をかけられた信仰の書である『如来滅後五五百歳始観心本尊抄』(略称『観心本尊抄』)を執筆されるのです。
ところで、2度目の佐渡流罪は、伊豆流罪と比較して厳しい弾圧であったことが知られます。『開目抄』の一節には、つぎのように記されています。
「国主からの法難は2度にわたっています。ことにこのたびの佐渡法難は、私自身の身命におよぶものです。それのみならず、私の弟子たち、さらには信徒たち、また私の教えをわずかでも聴聞する世俗の人たちにまでも、厳しい罪科が課せられています。あたかも、国主に敵対して、反乱をくわだてているような処罰です」(現代語訳・昭定557頁)
さらには、この佐渡流罪の折には、鎌倉にあって千人の中、999人までが、聖人のもとを去っていった、との手紙の一節が見られるのです。
けれども、このような恐怖の中にあっても、けっして退転することなく、鎌倉から流罪の地である佐渡まで、1人の幼ない女の子とともに、聖人のもとにおとずれた女性信徒が存在したことを、私たちはけっして忘れてはならないと思うのです。
聖人が『開目抄』を完成された文永9年(1272)2月の頃は、地頭・本間重連の館の後方に広がる埋葬地に建てられたお堂を住居とされていました。やがて、その年の4月頃には、「佐渡の国佐和田の郡石田の郷一谷」(『一谷入道御書』・昭定994頁)へと移られ、一谷入道のあずかりとなっていたことが知られます。その一谷の地へ、はるばると鎌倉の地から、みずから身命をかえりみることなく、法華経信仰のもとに、多くの困難を克服して、幼ないお子とともに1人の女性信徒が訪問したのです。その求道心をたたえられた聖人は、「日妙聖人」という法名をさずけられています。そのお手紙(『日妙聖人御書』)の末尾は、文永9年5月25日とあり、あて名は「日妙聖人」と明記されています。
いまあらためて、日蓮聖人のご誕生800年を迎え、佐渡流罪750年に当たることに思いをいたしますと、聖人の慈悲の深さと、その教えを、今の私たちに手渡してくださっている先聖に頭を垂れ、感謝しないではいられないのです。
(論説委員・北川前肇)

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2022年6月1日号

人類滅亡の道をふさぐために

昭和61年6月、札幌市本龍寺を主会場に開催された日蓮宗青年会の第25回全国結集に参加した。故伊藤瑞叡上人の「願業」と題する深淵な基調講演を聴聞した後、札幌市内を唱題行脚し、北海道庁前で「北方四島早期返還」を祈念した。先日、知床半島で観光船沈没の惨事があり、多くの犠牲者とその家族のことを思うと、悲痛な思いを禁じ得ないが、報道で映像や地図を目にするたびに、北方四島がすぐ目と鼻の先であることを改めて思い知らされた。そして、ロシアのウクライナ侵攻と北方四島の帰属の行方が、密接に連関している事実に思いを致さざるを得ない。
尖閣諸島、竹島、北方四島といった日本が直面する領土問題のみならず、ウクライナ、台湾、南シナ海、カシミール、パレスチナなど、領土をめぐる争いは今現在も国際的に多くの難題を抱えている。
国際的な紛争解決のための組織として国際連合を信頼して委ねたいとの期待を持つのであるが、その国際連合の主要なメンバーの大国が、解決をリードするどころか自ら領土的野心を持って拒否権を乱用する現状には、一筋縄ではいかない困難を感じざるを得ない。
今回のウクライナ問題の背景には、宗教戦争的要素があると言われている。キリスト教とロシア正教は同じキリスト教を源流としているが、教義的に隔たりがあり、その違いが1千年以上にわたる宗教対立の原因となってきた。NATO(北大西洋条約機構)を構成する大多数の西欧諸国は、かつてのローマからカトリックを受け入れた国々を母体としており、一方、ロシアとウクライナは988年にコンスタンティノープル(現イスタンブール)からギリシャ正教を受容し、今のロシア正教の源流となっている。正教の中でも、ウクライナとロシアの間の確執があり、そのことが今回の紛争の底流に流れていると言われている。テレビ報道では、ロシア正教の聖職者が、犠牲者を悼むだけではなく、ロシアの侵攻を支持しているとされている。
このような複雑で困難な、しかし私たちのすぐそばに差し迫っている戦争と平和という課題に、どのように立ち向かえばいいのであろうか。
冒頭に紹介した全日青の北海道結集の基調講演で伊藤瑞叡上人は「いまこそ立正安国の精神によって、正によって邪を克服し、直道によって邪心を克服し、正教によって邪説を克服し、正なるものによって傍なるものを克服し、円なるものによって偏なるものを克服し、正道の侶として謗法の人を克服しなければならない。すなわち、正しい宗教(=人倫)によって、自律の倫理、自律の政治によって、正しい国家(=世界)を樹立していかなければならない」と述べていた。単に和すればいいというものではなく、そこに「立正」があって初めて真の平和がもたらされる。
現実から厭世逃避するのではなく、慢心過信に陥ることなく、困難な現実に臆することなく立ち向かい、仏の浄土をこの現実世界に築く困難な道を歩むことこそ、日蓮聖人の負託に応え、立正安国を実現していく道である。
今、世界全体が五濁の悪世に陥り、人類の存続が脅かされている。核戦争の危機に直面している。全人類が一体となって知恵を絞り、平和を取り戻すべき時である。敵も味方もなく、東も西もなく、全人類が絶滅の危急存亡から逃れる道、それこそが法華経、お題目の祈りである。
(論説委員・柴田寛彦)

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新年のご挨拶。

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    日蓮宗新聞社編
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