論説

2022年4月20日号

「共生共栄」の精神からの平和へのメッセージ

2月24日、ロシアがウクライナを侵略し、今(3月末日時点)も民間人を含む数多くの「いのち」が喪われている。
この状況に鑑み、3月10日号の『日蓮宗新聞』には田中恵紳日蓮宗宗務総長の「声明文」が掲載され、身延山久遠寺も3月1日付で「平和へのメッセージ」を発表した。
第2次世界大戦が終結し昭和26年(1951)9月、敗戦国日本はサンフランシスコにおいて講和条約を締結した(ソビエト連邦など数ヵ国は批准せず)。日本はその存在を世界に認められ、独立国として再スタートした。
この会議の前に、日本との締結条件について様々な議論がなされ、各国の代表がその国の思いをスピーチした。日本を4分割にする、あるいは莫大な戦後賠償という強硬提案もあったという。そのなかにあって、後世に残る名演説を述べ、拍手喝采を浴びた代表がいた。スリランカ第2代大統領ジュニウス・リチャード・ジャヤワルダナ氏(当時蔵相で全権代表)である。
演説のなかで、彼はスリランカも日本も仏教国であることを述べ、お釈迦さまの『ダンマパダ(法句経)』第5偈の文言を引用し、「この世の怨みは怨みをもって静まることはありえない」、この「怨みの連鎖」を断ち切ることによって真の平和が来ると訴えた。
この会議の結果、日本を分割することなく、賠償も求めないという結論に至り、日本は世界に迎えられた。
身延山第92世岩間日勇上人は、著書『共に生き 共に栄える』の「力で勝つ者は滅びる」で、
「人間には牙も角もない/争わないで生きるようになっている/争うよりも和することだ/憎むよりも愛することだ/明るく楽しく活きられる/平和に安穏に活きられる」
と綴っている。
争いや戦いに勝者敗者はない。その結果は、ただ虚しさ、互いに憎しみが増すだけで、国土、社会、家族の安寧とはほど遠いものとなってしまう。この争いの連鎖を断ち切ること、和することこそが平和や安穏をもたらすといわれた。
ロシアによるウクライナ侵攻・蹂躙の裏には、一方で宗教的問題、宗教の対立があるという。ロシア正教とウクライナ正教、ロシア正教と西欧キリスト教との価値観の確執があると米国カリフォルニア大学の歴史学者が指摘している。つまり、西側的リベラルな思考とキリル総主教が主張するロシア的思考との闘いが根底にあるというのだ。
人びとを幸せにするはずの宗教が、その主張に固執することにより、争いの根源となるならば由々しき問題であるといわなければならない。
今、身延山では信仰運動「共栄運動」を展開している。「共生 共栄」、この言葉を常に発したのは日勇上人である。この言の基底には、仏教の寛容という価値観、法華経第7章「化城喩品」の「みな共に仏道を成ぜん」、日蓮聖人の「五重相対」という「全否定ではなく、良きものを生かして能統一」という考え方がある。
全ての人びとを分け隔てすることなく、取り残すことなく、「共に生き、共に栄える」、全ての人は皆平等である、という高邁な精神は、今こそ高く評価されなければならないし、何より活かさなければならない。
身延山から発信した「平和へのメッセージ」の末文には、
一刻も早く怨みの連鎖を断ち切って、ウクライナの大空・大地に平穏が来たることを願い、ウクライナの人々の安寧実現を祈念致します。
と記されている。
(論説委員・浜島典彦)

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2022年4月10日号

戦争はいらない。平和がほしい

■戦争はいらない平和がほしい
ロシア、ウクライナ戦争が始まって1ヵ月が過ぎた。
その戦況が毎日のテレビで伝えられているが、その悲惨な状況に世界中の人が胸を痛めていることであろう。
「戦争はいらない。平和がほしい」と、幼児をかかえて避難しながら涙声で叫ぶ母親の姿に早くこの戦争が終わって、平和な世界が来ることを祈らずにはいられない。
世界を二分するような世界戦争に発展しかねないこの戦争は世界人類の一大危機である。私たち日本人も、人類の平和のために、真剣に取り組まなければならないと、世界平和の祈りを強めていることであろう。
第2次世界大戦での悲惨な敗戦の体験のみならず、人類始まって以来初めて核兵器の残酷さを体験した日本は戦争の放棄を誓い、核兵器の廃絶を誓願した。
この日本の誓願を世界に及ぼす時が来ていることを私たち日本人は自覚しよう。特に立正安国世界平和のお題目を唱える私たちの責任は重い。総決起して、撃鼓唱題に精進していこう。
■青年会の撃鼓唱題行脚
3月16日、山梨県日蓮宗青年会の10余人の青年僧たちが、青年会創立60周年を記念して、撃鼓唱題行進し、自坊に立ち寄ってくれた。
折しもロシア、ウクライナ戦争の最中であっただけに、平和の撃鼓唱題行脚に感動し、感激の中で歓迎させていただいた。
「我が此の土は安穏にして天人常に充満せり。…諸天天鼓を撃って常に諸の伎楽を作す」との平和の事相を現しながら唱題行進する功徳は、仏国土顕現のための大きな力となるからだ。
思えば60年前、法友たちと相諮り発足した青年会が、いま脈々と続いており、平和への行動を続けてくれていることをありがたく思う。
日蓮宗の青年会は、全国に結成されており、それぞれ活発な活動を続けている。今後、山梨日青のように、世界平和を祈る撃鼓唱題行進を全国に展開してほしいと願うできごとであった。もちろん筆者を始めとして、各自・各寺院も平和への祈りに総決起する時が来ているように思えてならない。
■今本時の娑婆世界は常住浄土
佐渡に流罪になられた日蓮聖人は、文永10年(1273)4月25日、石田の郷一の谷で『観心本尊抄』を当身の大事といわれて述作なさった。今年はその750年の節目の年である。この節目の年に改めて観心本尊の信仰に目を開けということであろうか。
『観心本尊抄』には、
「今本時の娑婆世界は、三災を離れ四劫を出でたる常住の浄土なり。仏既に過去にも滅せず未来にも生ぜず。所化以て同体なり。此れ即ち己心の三千具足三種の世間なり」とある。
久遠のご本仏の大慈悲のお題目を唱えている時の娑婆世界は、ご本仏の大慈悲心に包まれて、平和な仏国土と化すという教えである。
ロシア、ウクライナ戦争の悲惨さを目の当たりにしている私たちは、手をこまねいているわけにはいかない。この地球国土はご本仏さまの本土であり、私たち人類は同胞なのだ。
『観心本尊抄』を述作されたその年の7月8日、本尊抄に説かれた本尊を図顕されている。佐渡始顕曼荼羅である。ご本仏の大慈念に生かされる平和な仏国土顕現を目指して、お題目を一心に唱えて生きろと、人類にお示しになられた。思えば私たちは大事な時にめぐり遭えた。ご降誕800年、『観心本尊抄』ならびに始顕曼荼羅750年に、改めて聖人にま見えることができた。
(論説委員・功刀貞如)

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2022年4月1日号

宗祖750遠忌と宗門再生を考える

全日本仏教会と大和証券は、共同で行った「仏教に関する実態把握調査」の結果を発表した。調査は令和3年秋、インターネットで約6200人(菩提寺のある人57%、ない人23%、不明な人20%)に実施したもの。「寺の役割で大切と思うもの」の質問に73%が「亡き人の供養」と答えた。「先祖供養」65%、「墓地の管理」63%が続く。寺の役割として「心の安らぎの場」38%、「生きる人への布教」25%、「社会貢献活動」22%だった。追善供養への期待が大きく布教活動への期待は小さかった。
菩提寺がある人対象の寺への満足度は、「満足している」54%、「不満がある」8%だった。満足している理由としては「住職が誠実」45%、「住職が誠意ある対応」41%、「住職が親切」38%だった。住職の人柄に対する評価が上位を占めた。満足してない理由としては、「お布施が高い」50%、「お金に絡む時以外、連絡が少ない」48%と金銭に関する不満が大きかった。さらに「住職に誠実さがない」27%、「法要に心がこもってない」27%が続いた。寺のキャッシュレス化については、「ある程度導入すべき」を含めた前向きな回答が56%あった。
今回の調査で求められる住職(僧侶)像とは、①誠意を持って檀信徒に対応する②真心を込めて法要を行う③お布施やご寄進などは安心できるように提示する④社会教化活動を発信するなどが考えられる。
注目したいのは寺の役割として、亡き人など追善供養の必要性が高い(73%)のに対し、信仰や布教への期待が低い(25%)ことだ。日蓮宗宗憲には、「本宗の布教は、広宣流布の祖願達成を主眼とする」(第7条)、また日蓮宗宗制第14号布教規程には「本宗の布教は、布教方針に基づき、時に臨み機に応じて行う」(第3条・令和3年4月1日施行)とある。つまり「日蓮宗の布教は、法華経と日蓮聖人の説かれたお題目の教えを宣布し、お題目信仰による人びとの安心と、世界平和の実現をめざす。そして、布教方針に基づき社会状況の変化に対し臨機応変に布教する」(意訳)とある。「何時でも・何処でも・誰にでも」臨機応変にお題目の布教を行うのが私たち日蓮宗徒の使命だ。ニーズの高い追善法要や葬儀など、今まで以上に布教現場とすることが効果的だと感じた。
令和4年新年度を迎え、15年間展開されてきた宗門運動「立正安国・お題目結縁運動」の総括が行われ、今後の宗門運動のあり方が検討される。また布教の原動力となる新たな「布教方針」が示される。戦後の混乱期に宗門の立て直しを目的に提唱されたのが日蓮宗の宗門運動。通常の布教現場の指針を示すのが布教方針。この2つに三大会(降誕・立教開宗・遠忌)が重層的なバランスを取りながら宗門の伝道布教が展開されてきた。
就任後初の第120定期宗会に臨んだ田中恵紳宗務総長は、「少子化」「人口減少」という宗門の存続危機の対処について「誰が行うかはさほど重要ではなく、何を行うかこそが重要」と指摘し、そのためには日蓮宗のグランドデザイン=長期総合計画の策定が必要と述べた。グランドデザインの根本理念は「宗門再生」にあるとし①寺院を強固な布教拠点として蘇生②理想とする教師育成体制の追求③生きた伝道活動④適切な宗門運営体制の構築など内包する事象を挙げた。
宗門再生を模索しながら令和13年の「宗祖750遠忌」をどう迎えるか。かつて盛大に奉行された宗祖700遠忌を回想しつつ、僧侶檀信徒一体となって精進していくことを願っている。  (論説委員・奥田正叡)

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