論説

2021年12月20日号

日蓮聖人降誕800年を送る

■核禁条約の発効に明けた年
 新型コロナ禍の暗い社会状況の中で、「核兵器禁止条約の発効」という光明を放って明けた2021年である。
 日蓮聖人降誕800年の嘉年にふさわしい幕開けであった。核のない世界を目指した長い運動が、ようやく日の目を見ることになって、世界人類の平和のために、大いなる希望を持たせてくれた。
 岸田文雄新総理大臣は、10月の国会の所信表明演説の中で、「被爆地広島出身の総理大臣として、私が目指すのは『核兵器のない世界』です。私が立ち上げた賢人会議を活用し、核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努め、唯一の戦争被爆国として責務を果たします。これまで世界の偉大なリーダーたちが幾度となく挑戦してきた核廃絶という名の松明を、私もしっかりと引き継ぎ、『核兵器のない世界』に向け全力を尽くします」と述べた。
 この力強い演説をまずは実行に移して、来年3月に開催される国連の批准国の会議にオブザーバーとしてでも参加していただきたい。さらに日本がこの条約に加わり、世界人類平和の先導役となってくれることを願う。
 岸田首相の所信表明を受けるかのように、米国の人口3万人以上の都市で構成されている全米市長会議が、米政府に対して「1月に国連で発効した核兵器禁止条約を歓迎し、核廃絶に向けた即時行動を求める」ための決議案を、全会一致で採択したことが報道された。
 人類の平和希求は高まっているのだ。
■新型コロナ禍での平和の希求
 近代未曾有の新型コロナ禍が世界的規模で起きている中で、人類の平和が大切だということをすべての人びとが感じていることであろう。
 この新型コロナ禍で亡くなった人びとは、世界中で500万人を数えるという。まさにコロナ戦争といっていいほどの人びとが尊い命を失くしている。
 日本だけでも1万8千人を超える人びとが亡くなった。人間としての尊厳性を失うようなパンデミックに遭遇した現代人の生き方が猛省されなければならない機会なのであろうか。いのちの尊厳性とともに、世界人類の生存の理念を再構築する時が来ているのかもしれない。
■聖人降誕800年を送る
 今年はいろいろな問題をはらんだ1年であった。だからこそ日蓮聖人に真剣に向き合うことができた年であった。
 常に光明を求め、光明を掲げて生きなさい、という聖人の教えに力づけられた年であった。
 私たちにとって光明はお題目である。そのお題目を唱えて新型コロナ禍の早期収束を祈り、お題目を唱えて世界平和を祈り、お題目を唱えて核兵器廃絶を祈った年であった。
 これほどお題目を唱えさせていただけたのは、まさに日蓮聖人のお陰である。新型コロナで尊い命を失くした人びとは、コロナ戦争で無念の死となった人びとなのだ。心からその多くの人びとのご冥福を祈っていこう。
 「立正安国・お題目結縁運動」は、今年度で結願となる。しかし立正安国運動は、私たち宗徒にとっては永遠の命題であろう。身延山での結願法要で、中川法政宗務総長は、「数多の祈りと共に、我ら宗門運動を次世代へと継承することを誓願し、来たるべき祖願達成の本時を今たらしめん」と結願文を読んだ。
 「汝早く信仰の寸心を改めて速やかに実乗の一善に帰せよ。然れば則ち三界は皆仏国なり。仏国其れ衰えんや。十方は悉く宝土なり。…」(『立正安国論』)の聖訓を心に響かせながら平和な社会への希望を涌かせて、新しい年を迎えよう。
    (論説委員・刀貞如)

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2021年12月10日号

コロナ禍 子どもとどう向き合うか

 『更生保護』誌は、法務省保護局の編集協力のもと日本更生保護協会から毎月発刊され、9月号の中心テーマは「少年を取り巻く更生保護」であった。
 論説では、神谷俊介・北里大学医学部地域児童精神科医療学特任助教が「新型コロナウイルスの感染拡大が子どもたちに与える影響」と題して執筆。氏は、大学病院での外来診療に加え、児童相談所、発達障害者支援センター、青少年相談センターなどの地域の児童精神保健に関わる中で、子どもたちの精神症状や問題行動の背後にある不適切な生育環境や虐待の世代間連鎖といった家族の問題、経済的貧困だけでなく、人びとのつながりの希薄さなどの社会問題が、子どもたちの心によどみや深い傷を与えていると指摘する。
 また児童精神科臨床の立場から肌で感じた現場の様子を報告。一斉休校や外出自粛によって社会の日常は崩壊し、この変化により対人関係や学習などのストレス因である学校に通わなくてよくなり、元気になる子どもは当初は大勢いた。しかし、当たり前の構造や枠組みがなくなることで混乱してしまう子どもも少なからず目につきだした。状況理解や想像性など認知機能に困難さを抱える自閉スペクトラム症の子どもに限らず、多くの子どもたちは周囲の大人たちの不安に反応するように、不安を強め混乱を増していったという。
 さらに感染の不安や日常の崩壊の中で「何かしなければいけない」と焦りを生み、強迫行動に駆られる強迫障害から死のリスクを抱える子も増加。子どもたちにとって日常の枠組みや行動規範、加えてこの先の見通しを大人たちが誰も明示できないことが、心の状態を悪化させた要因と述べる。
 そこで神谷助教は、子どもの心を守る精神保健を考える観点から、まずは大人たちが落ち着きを取り戻すことが重要と提言する。「子どもたちが、社会に生きていくには、自己を同一化するための対象が欠かせない。その多くは親や身近な大人から取り入れられる」と記し、自身も大人としての自分を明らかにして子どもたちに接していきたいと論を結んでいた。
 『朝日新聞』では11月4日から3回にわたり「学校に行けない~コロナ休校の爪痕」を特集。日常の断絶が子どもたちの心に何をもたらしたか、当事者の声と思いを報じた。
 文部科学省の昨年度調査によると、不登校の小中学生は約19万6千人で過去最多となった。不登校の主な要因は「無気力・不安」の46・9%が最多であった。
 子どもの悩み相談先としては◆生きづらびっと◆こころのほっとチャット◆子どもの人権110番◆子どもの人権SOSミニレターなどがある。NPO法人【あなたのいばしょ】には、昨年3月に開設したチャット相談窓口へ10万件を超える相談が寄せられたが、文部科学省の問題行動・不登校の調査では、学校内外で相談や指導を受けたのは65・7%で、残り34・3%は受けていないことが明らかになった。
 長年、犯罪をした人や非行少年たちの更生保護に携わる先人から「彼ら彼女らは正しいことを聞きたいのではない。信頼できる大人に話を聴いてもらいたいのだ」と教えられたことがある。
 「聞く」に対して「答える」、「聴く」に対して「応える」。前者には耳と口。後者には心と心の文字がある。我が身を省みて、心で聴いて心で応えられる大人であろうか。信頼できる大人の姿を明示し、子どもの不安や困り感に共感し、いま取り組めることを一緒に考えられる伴走者が求められている。
    (論説委員・村井惇匡)

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2021年12月1日号

尊き節目を迎えて

 数えの50歳を迎えられた日蓮聖人が、北条政権の裁断によって、佐渡流罪に処せられたのは、文永8年(1271)9月12日のことです。佐渡国の守護職は、北条宣時(大仏宣時とも。1238~1323)であり、その配下として佐和田郷などを支配する地頭職は、本間六郎左衛門重連でした。
 聖人居住の草庵を平左衛門の郎従などが襲い、聖人を拘束して、若宮小路などを引きまわし、由比ヶ浜、稲村ヶ崎などを経て、刑場の腰越龍ノ口で、密かに聖人の生命を奪うことを企図したのです。けれども、そのたくらみは、果たされることなく、地頭の本間氏の館がある相模国愛甲郡依智郷(現・神奈川県厚木市)へと移ることになります。そして、佐渡国へ出発されたのが、同年10月10日のことです。
 のちに、幕府が聖人の流罪の赦免状を発出するのは、文永11年(1274)2月のことでありますから、数えの4ヵ年間が聖人にとっての佐渡流罪期間です。
 幕府の下した厳しい罰は、聖人のみならず、弟子、信徒にまでおよぶのです。すなわち、その処断は、聖人が32歳の立教開宗以来、ただ末法の人びとを、題目の5字・7字による救いを示され、唱題一行による法華経信仰への帰依を勧奨されることに対する、弾圧にほかなりません。つまり、日本の政治を、「承久の変」(1221)を通して掌握した北条政権は、政治的・宗教的意図のもとに、日蓮聖人を中心とする法華経信仰の宗団の壊滅をはかることが佐渡流罪の目的でした。
 聖人の信徒に与えられたお手紙を拝見いたしますと、多くの人びとが、聖人のもとを去っていきました。さらに、聖人の法華経信仰のあり方、お題目を弘められる態度、あるいはその教えの内容に対する懐疑が噴出しました。
 日蓮聖人の流人としての居住は、本間氏の館の後方に広がる、死者を埋葬する場所に建てられたお堂にすぎません。しかし、そのような厳しい境遇の中、聖人は、つねに死に直面されていることから、「かたみ」(『昭和定本』590頁)として、また未来の私たち凡夫の指針となる長編の『開目抄』を、翌年の文永9年(1272)2月に完成されているのです。この書は9月12日の逮捕の折、殉死を覚悟した四条金吾へつかわされています。
 さらに翌文永10年(1273)4月25日には、末法の暗闇を取り除き、末法万年の大灯明となるべき『如来滅後五五百歳始観心本尊抄』(略して『観心本尊抄』)を完成されているのです。この書には、私たちが唱えるお題目は、久遠の釈尊の大慈大悲、すなわち久遠以来の釈尊のすべての功徳―一念三千の宝珠であることを示され、久遠の釈尊が、閻浮提の人びとにとっての本尊であることを明かされています。
 このように聖人の佐渡流罪の厳しさと、聖人の信仰の深さを考えるとき、末法のいまに生きる1人として、今年が聖人ご生誕800年のご正当であり、また聖人が佐渡流罪に処せられて750年の『開目抄』ご執筆のご正当、さらに明年が『観心本尊抄』完成の750年の節目に当たることの尊さを強く感じるのです。
 そして、私自身が愚者であることを認識するとともに、聖人が久遠の釈尊の勅命によって、本化上行大菩薩として、濁世末法の私たちのもとに涌現されたことの尊さに感謝と法悦とを感じないではいられないのです。  (論説委員・北川前肇)

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新年のご挨拶。

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    日蓮宗新聞社編
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