論説

2021年11月20日号

コロナ禍で子育てを考える

 私が園長を務める幼稚園の特有な風景は、出産を終えて久しぶりに登園した母親が抱いている赤ちゃんを他の園児の母親たちが取り囲み、「可愛いね」「懐かしいなあ」「抱かせて」「今が一番大変だけど、がんばってね」とたくさんの言葉を掛け合う、とても微笑ましいものである。
 緊急事態宣言が解除され、ようやく地域のつながりが戻ってきてはいるが、当園で開催している入園前の親子が出会い、一緒に過ごす時間(親子広場)に参加している母親たちが語る言葉は「地域の子育てセンターや公園に誰もいない。コロナ禍になって2年。この子を産んで育てるなか、親子で孤立してしまうのではないかと不安でした」。ヨチヨチ歩きの我が子を眺めながら、時には涙を浮かべて語る彼女たちの背中をさすりながら「何とかしなければ…」と園長としてできることを考える。
 厚生労働省は「新型コロナウイルスの影響で、子育てに悩む保護者が孤立するリスクは高まっており、見守り体制の強化を進めたい」としている。18歳未満の子どもが親などの保護者からの虐待で児童相談所が対応した件数は、全国で20万5029件と報告され、本年、過去最多を更新するようであり、子育て世帯の孤立化が大きな問題として挙がっている。未来を担うすべての子どもたちが希望を抱き幸福に導かれるように、今、健全な育ちを保証しなければならないと思うと、小さな集合体である子育て世代の家族に、目を向けることは必然と考える。
 新型コロナウイルスの影響で在宅時間が増えた今、現在妊娠中または0~2歳の子どものいる父親・母親を対象に江崎グリコが、「コロナ禍における出産と子育てに関するアンケート」を全国的に行った。その結果、7割以上の父親・母親が新型コロナウイルスは子育てに影響があったと回答し、6割以上が「家族で一緒に過ごせる時間が増えた」と回答している。一方で、コロナ禍の子育てにおいて孤独感や心細さを感じている母親は7割以上で、その理由として「地域のコミュニティーに参加できない」「他の子育て中のお母さんと交流できない」など外の世界との接触機会が減ったことを主な要因としている。
 また子育てをするうえで重要だと考えることでは、父親・母親とも「夫婦で協力して子育てにあたること」が1位となったが、男女で回答数に20%以上の差があり、家族で一緒に過ごす時間が増えても、いまだに夫婦で協力して子育てすることに男女間で意識差があることも指摘している。子育てにおける母親の悩み1位は「1人でリラックスする時間が取れない」、2位「感情のコントロールができない」、3位に「パートナーの子育てに対する知識や理解が十分でない」ということが挙がっていた。本紙読者世代はさまざまなので、これらの結果を「昔は違った」と思う人がいるかもしれないが、日蓮聖人は「子にすぎたる財なし」と『千日尼御返事』で示されている。聖人の慈愛の言葉の中には、夫を亡くした妻・千日尼への思いやりだけでなく、父母の信仰を引き継ぎ、はるばる佐渡から身延まで登詣する親孝行な子どもを育てた母・千日尼への、子育てに対する慰撫の言葉であったと思う。
 子育ては、時代とともに変化しながらも継承される人間として大切な営みである。関わる私たち、地域社会がその主体者である母親を慰め、いたわりや思いやりをかけることで、「子どもたちの大好きなお母さんが笑顔」になることが、まさに子どもの幸せに繋がる。コロナ禍で見えてきた母親たちの思いを、今後も丁寧に支えていきたい。
    (論説委員・早﨑淳晃)

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2021年11月1日号

新型コロナの心のワクチン

 新型コロナについては、感染の仕組みや予防法、ワクチンの有効性や治療薬など、1年前に比べて格段に知見が深まった。
 さらに社会状況の変化をつぶさに観察すると、人間の心に及ぼす影響も大きいことが分かってきた。人間の心に及ぼす影響には以下のものがあるようだ。
①「不信感が増幅し、疑心暗鬼を募らせる」政治、医療、医学、行政、経済などへの信頼が揺らぎ、疑心暗鬼を募らせる。相互の不信感を増幅させるような真偽不明の情報が拡散し社会が混乱する。
②「寛容性を失い攻撃的になる」感染蔓延の不安感を背景に、周囲のすべての事柄に対して寛容性を失い、攻撃的になる。また、相互の不寛容を増幅させ混乱させることに快感を覚える。
③「欲望への抑制が失われる」日常生活に必要な活動では満足できず、多くの刺激を求めて感染の危険性の高い場所に出かける衝動を抑制できなくなる。
④「自分の価値観と異なるものに差別的になる」新型コロナの発生源、ワクチン接種の可否、社会経済活動の改変の必要性などに関する自分と異なる意見のものに対して差別的になり、自分の考えを押し付けようとする。
⑤「正邪の判断ができなくなる」見聞するあらゆる情報の正邪の判断に迷い、混乱する。正邪が判然としない情報を媒介して流布させて混乱を増幅させる。
⑥「自分の責任を棚に上げ、他者の責任を追及する」予防対策を講ずることなく感染拡大地域に近づいた結果感染しても、自らの責任は棚に上げ、他者の責任を追及し、社会の仕組み全体に不満を募らせる。
⑦「希望を見出すことができず悲観的になる」自分自身の将来、社会全体の将来について明るい未来像を描くことができず、幻滅し、過度に悲観的になる。
 心に生じるこれらの症状は、ウイルスに感染し発症した人に限らず、感染者が発生した社会全体に発症するようである。元々潜在していた素因が、顕在化したという要素もある。あたかも子どものころにかかった水痘のウイルスが体内に残存し、後日そのウイルスによって帯状疱疹が発症するようなものである。従って、感染していない、あるいはワクチン接種を終えたと楽観している人の心の中にも、無自覚のうちに遅れて現れることがあるので注意を要する。
 これらの心の症状は、コロナ感染症に対する治療で身体的症状が軽快することによって次第に軽減する場合もあるが、心に後遺症が残って長期にわたって残存し、また、ウイルスが消滅したのちにも再発する場合があるので注意を要する。
 このような心の症状に対する治療は、自らの心を内省し、このような症状が出ていることを自覚することが前提となる。自覚がなければ、治療を求める心も生まれない。その自覚の上に立って、釈尊の「良薬」を服用することが治癒への道である。
 「現在の日本国中に流行している疫病は、日本国全体の心の病の反映である。釈尊でなければ、法華経でなければ除くことはできない」との日蓮聖人のご教示が、令和の現在にそのまま当てはまるのではないか。
 現在使われているワクチンは、コロナウイルスの人体への侵入を防ぎ、重症化を抑制し死亡率を低下させるのに有効であるが、心の症状に対するワクチンは別途必要である。釈尊の「良薬」であるお題目という極めて汎用性の高いワクチンが身近にあることを忘れてはならない。
    (論説委員・柴田寛彦)

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新年のご挨拶。

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