オピニオン

2021年8月1日

 私が日蓮聖人(1222~82)のご生涯を、学術研究の立場から、はじめて学ぶ機会を得たのは、立正大学仏教学部宗学科に入学してからです。それ以前の幼少年期にあっては、菩提寺へ両親とともに参詣した折のお説教や、周囲の人たちが語ってくださる聖人に関する話。あるいは本堂の欄間に彫刻されている聖人のご生涯のいくつかの場面。また聖人のご一代の絵画が、渡り廊下の壁面に掲げられる場面。さらには、博多の東公園にそびえる日蓮聖人銅像の台座の部分に浮き彫りにされている彫刻などが想起されます。
 また、子どものころから映画を好んだ私は、小さな街に5軒もの映画館があったことから、小学校から映画鑑賞として出掛けたこともあり、分けても小学5年生の昭和33年(1958)10月に、両親や友人たちと数回鑑賞した長谷川一夫主演の『日蓮と蒙古大襲来』が印象深く残っています。
 これらの学びは、日蓮宗との連関のうえでの日蓮聖人の伝記ですが、立場を異にするキリスト者の、日蓮聖人を称讃する著書との出会いは、衝激的でした。すなわち、無教会派の内村鑑三(1861~1930)著『代表的日本人』(岩波文庫)です。本書の執筆目的は欧米諸国の人たちに、日本および日本人を紹介することを目的とするものです。岡倉天心(1863~1913)の『茶の本』(ニューヨークで出版)、新渡戸稲造(1862~1933)著『武士道』とともに、3部作として数えられるのです。
 『代表的日本人』に描かれる人物は、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、そして日蓮聖人の5人です。仏教者は、日蓮聖人のみですが、他の4人も歴史に残る社会貢献者、思想家であります。
 執筆者の内村鑑三は、新渡戸稲造とともに札幌農学校に学び、キリスト教信仰に目覚めた人物であり、また活動家であることと軌を一にしています。
 では、内村は、日蓮聖人のご生涯をどのようにして知り得たのでしょうか。現在、立教大学名誉教授で、内村鑑三や近代日本キリスト教の研究者である鈴木範久氏は、『「代表的日本人」を読む』(大明堂、1988)の著書で、幕末維新期の日蓮聖人遺文の校訂者である小川泰堂居士(1814~78)が、慶応3年(1867)に脱稿し、その後、版を重ねている『日蓮大士真実伝』5巻に依っていることを指摘されています。
 泰堂居士の本は、今日から見れば、実証的、客観的歴史研究書ではありませんが、聖人に関する伝説や縁起や、奇跡の部分が多く折り込まれ、聖人を讚仰する情熱が十分に汲み取れるのです。
 そのことからも、内村のキリスト教への入信が『余は如何にして基督信徒となりし乎』(岩波文庫)にその情熱が横溢していることからも、両者の親和性が看取できます。
 今年の6月5日から28日まで、日蓮聖人降誕800年を記念し、東京の歌舞伎座で『日蓮―愛を知る鬼(ひと)』が上演されました。コロナ禍のために、限られた上演時間と、制限された観客の中での舞台です。60分ほどの枠の中で、日蓮聖人を「愛を知る鬼(ひと)」「慈愛に生きる人」として描かれている演出は、みごとなものであったと思われます。
 私は、宗祖日蓮聖人を「慈悲の人」として渇仰恋慕し、日々刻々を過ごすことができれば、無上の幸せであると思っています。
(論説委員・北川前肇)

illust-ronsetsu

side-niceshot-ttl

写真 2023-01-13 9 02 09

新年のご挨拶。

過去の写真を見る

全国の通信記事

  • 北海道教区
  • 東北教区
  • 北陸教区
  • 北関東教区
  • 北関東教区
  • 千葉教区
  • 京浜教区
  • 山静教区
  • 中部教区
  • 近畿教区
  • 中四国教区
  • 九州教区

ご覧になりたい
教区をクリック
してください

side-report-area01 side-report-area02 side-report-area03 side-report-area04 side-report-area05 side-report-area06 side-report-area07 side-report-area08 side-report-area09 side-report-area10 side-report-area11_off side-report-area12
ひとくち説法
論説
鬼面仏心
購読案内

信行品揃ってます!

日蓮宗新聞社の
ウェブショップ

ウェブショップ
">天野喜孝作 法華経画 グッズショップ
">取扱品目録
日蓮宗のお店のご案内
">電子版日蓮宗新聞試読のご登録
">電子版日蓮宗新聞のご登録
日蓮宗新聞・教誌「正法」電子書籍 試読・購入はこちら

書籍の取り扱い

前へ 次へ
  • 名句で読む「立正安国論」

    中尾堯著
    日蓮宗新聞社
    定価 1,365円

  • 日蓮聖人―その生涯と教え―

    日蓮宗新聞社編
    日蓮宗新聞社
    定価 826円+税

書評
正法
side-bnr07
side-bnr07