論説

2021年7月20日号

仏教にサスティナブルを考える

 仕事が立て込んで、夕飯の支度に慌ててスーパーへ駆け込み「アッ、忘れた…」という自己内対話の先に、有料となったスーパーの袋を買うことへの後悔。幼稚園の園長でもある私は、子どもたちが廃材で作った品物の売り買いをする「おみせやさんごっこ」という園行事に、「エコバッグ」を導入しようと提案した。
 最近メディアで「サスティナブル」という言葉を聞く機会が多くなったと思う。「サスティナブル」とは、「持続可能であるありさま。特に地球環境を保全しつつ持続が可能な産業や開発などについていわれ、「サスティナブルな社会づくり」などと用いられる(出典・小学館デジタル大辞泉)。近年、企業などで多く用いられるようになり、加速する地球温暖化、人口の爆破的な増加、貧困格差など地球規模のさまざまな問題が拡大し、複雑化しているこの問題に経済活動や生活が維持するための試みや働きかけへの促しは、ゴミの分別やエコバッグなど地域や家族などの小さな集合体でも、できることを考えるきっかけとなった。特に世界的な新型コロナウイルス感染拡大は、人びとの生活様式を変化させ、改めて今までを振り返り、これからを考える機会となったと思う。
 考えてみれば、日本において仏教で大切にしてきたことは、「サスティナブル」な精神を軸に1500年という月日を歩んできている。特に日蓮宗は、茶道と深い関係を持ち、侘び寂びという美意識に大きな影響を与えてきた。詫び寂びとは、質素、不足の中に心の充足を見出し、静寂の中に奥深いもの、豊かなことをおのずと感じられる美しさを美徳とする。現代社会の中で、効率と生産に価値を置き、経済的な豊かさに執着してきた結果がもたらし、諸問題を抱えた今を「サスティナブル」という言葉と共に意識を変える手がかりが、詫び寂びの精神と仏教の関係にあるのではないか。持続可能なこれからの社会へ、豊かな心を互いに育みあえることを提案したい。
 仏教では、6つの修行(六波羅蜜)が示されているが、物やお金ではない布施行を無財の七施という。華美なもの・散財なことへの脱却から不足しているものを見出し、ささやかであるが自ら施すこの行は互いの救済、ひいては世界の救済へと導くと信じたい。
1・眼施 (慈眼施ともいい、あたたかなまなざしですべてに接する)
2・和顔施(和顔悦施ともいい、いつも和やかで明るい笑顔・優しいほほえみをたたえた笑顔で接する)
3・言辞施(愛語施ともいい、粗暴でない思いやりに満ちた優しい言葉をかけていく)
4・身施(捨身施ともいい、身体奉仕、人や社会など自ら他のために働く)
5・心施(心慮施ともいい、他の痛みや苦しみを自らのものとして感じれる気持ち、他のために心をくばり、思いやりの心を持つ)
6・床座施(場所や席を譲る)
7・房舎施(雨や雨露をしのぐ所を与えること。訪ねてくる人がいれば一宿一飯の施しをする)
 新型コロナウイルス感染拡大防止策として、マスクの着用が強いられる今、顔のほとんどが隠れてしまい、人びとの心の表現が読み取りにくいと感じる。しかし、人びとが互いに心を表現し、繋がり、やがては互いが救われていくことを無財の七施が示す。お寺は「サスティナブル」持続可能な心の拠り所であるという自覚を持っていきたいと思う。
(論説委員・早﨑淳晃)

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2021年7月1日号

法華経の時間

 昨年4月、東京大学と理化学研究所のグループが、東京スカイツリー展望台では地上よりも時間が速く進んでいることを測定したという報道があった。重力が小さいと時間の進み方が速くなるという、アインシュタインの一般相対性理論がわずか456㍍の高さでも実証されたというのである。地球の重力圏から遠く離れた人工衛星や、宇宙ステーションではすでに実証されていることであり、専門家の間では常識なのであろうが、時間の流れの速さが場所によって違うということは、私たち凡人の頭ではなかなか納得しづらい。もっとも、SFの世界とは異なり、現実の時間差はごくわずかなものであり、スカイツリーでの時間の進み方は1日にわずか10億分の4秒と、日常生活では無視し得るほど小さい。
 小惑星探査機「はやぶさ2」が4年半の宇宙の旅の後に小惑星「リュウグウ」に軟着陸、表面物質を採取して地球に帰還、カプセルの回収に成功した後、再び宇宙へと旅立ったという、映像を伴ったニュースに驚嘆したが、地上にいる我々と「はやぶさ2」の時間にいったいどのような違いがあったのか興味がわく。スカイツリーで実証されたように地球の重力圏から離れるに従って時間の進み方が速くなるとされているが、一方では高速で移動すると時間の進み方が遅くなるといわれている。浦島太郎現象である。高速ロケットで宇宙旅行をして戻ってくると、地上にいる人が加えた年齢よりも宇宙旅行をして帰ってきた人が加えた年齢の方が少なくなるというのである。「はやぶさ」は、地球の重力圏から離れることによって時間の進み方が速くなる効果と、高速で移動することによって時間の進み方が遅くなるという、相反する2つの効果を受けたであろうから、結果としてどうだったのか、専門家の意見を聞きたいところである。
 ところで、釈尊が霊鷲山で法華経を説いていた時、多宝如来の宝塔が出現し、空中にある宝塔の中に招き入れられた。その宝塔の高さは五百由旬(約7千5百㌔)という途方もない高さで、宇宙ステーションが周回している軌道が地上400㌔であるから、完全に宇宙に頭を出している。そのような大きな宝塔が霊鷲山よりもかなり高いところに浮いていたとすれば、そこでの時間の進み方は地上よりも速かったということになる。
 さらにその後、大地の下の虚空界から無数の菩薩たちが湧き出でて空中の宝塔に至り、釈尊と多宝如来に挨拶に伺った。この間に五十中劫というとてつもない時間が経過したが、地上にいた人たちにはその無限に近い長い時間がほんの半日のようにしか感じられなかったという。
 時間のスケールが全く異なるので単純な推論は許されないが、高い所に浮かぶ宝塔の中での時間が地上での時間よりも速く進んでいたことはあり得る。もちろん五十中劫と半日ほどの違いは現実にはあり得ないが、譬喩としては成り立ちうるだろう。
 地涌の菩薩たちの住所である大地の下の虚空界とはどのようなところなのか想像が難しいが、大地の地下深くは地球の重力が大きくなるので、スカイツリーとは逆に時間の進み方が遅くなると考えられ、釈尊と地涌の菩薩たちの師弟関係を考える時に興味深い。
 このように想像をたくましく考えると、法華経の世界は相対性理論を先取りしているのではないかとさえ思えてくる。
 法華経は、異なる視点で読みなおしてみると、そのつど新たな示唆を与えてくれる。何度読んでも興味が尽きずおもしろい。
(論説委員・柴田寛彦)

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