オピニオン

2021年7月1日

法華経の時間

 昨年4月、東京大学と理化学研究所のグループが、東京スカイツリー展望台では地上よりも時間が速く進んでいることを測定したという報道があった。重力が小さいと時間の進み方が速くなるという、アインシュタインの一般相対性理論がわずか456㍍の高さでも実証されたというのである。地球の重力圏から遠く離れた人工衛星や、宇宙ステーションではすでに実証されていることであり、専門家の間では常識なのであろうが、時間の流れの速さが場所によって違うということは、私たち凡人の頭ではなかなか納得しづらい。もっとも、SFの世界とは異なり、現実の時間差はごくわずかなものであり、スカイツリーでの時間の進み方は1日にわずか10億分の4秒と、日常生活では無視し得るほど小さい。
 小惑星探査機「はやぶさ2」が4年半の宇宙の旅の後に小惑星「リュウグウ」に軟着陸、表面物質を採取して地球に帰還、カプセルの回収に成功した後、再び宇宙へと旅立ったという、映像を伴ったニュースに驚嘆したが、地上にいる我々と「はやぶさ2」の時間にいったいどのような違いがあったのか興味がわく。スカイツリーで実証されたように地球の重力圏から離れるに従って時間の進み方が速くなるとされているが、一方では高速で移動すると時間の進み方が遅くなるといわれている。浦島太郎現象である。高速ロケットで宇宙旅行をして戻ってくると、地上にいる人が加えた年齢よりも宇宙旅行をして帰ってきた人が加えた年齢の方が少なくなるというのである。「はやぶさ」は、地球の重力圏から離れることによって時間の進み方が速くなる効果と、高速で移動することによって時間の進み方が遅くなるという、相反する2つの効果を受けたであろうから、結果としてどうだったのか、専門家の意見を聞きたいところである。
 ところで、釈尊が霊鷲山で法華経を説いていた時、多宝如来の宝塔が出現し、空中にある宝塔の中に招き入れられた。その宝塔の高さは五百由旬(約7千5百㌔)という途方もない高さで、宇宙ステーションが周回している軌道が地上400㌔であるから、完全に宇宙に頭を出している。そのような大きな宝塔が霊鷲山よりもかなり高いところに浮いていたとすれば、そこでの時間の進み方は地上よりも速かったということになる。
 さらにその後、大地の下の虚空界から無数の菩薩たちが湧き出でて空中の宝塔に至り、釈尊と多宝如来に挨拶に伺った。この間に五十中劫というとてつもない時間が経過したが、地上にいた人たちにはその無限に近い長い時間がほんの半日のようにしか感じられなかったという。
 時間のスケールが全く異なるので単純な推論は許されないが、高い所に浮かぶ宝塔の中での時間が地上での時間よりも速く進んでいたことはあり得る。もちろん五十中劫と半日ほどの違いは現実にはあり得ないが、譬喩としては成り立ちうるだろう。
 地涌の菩薩たちの住所である大地の下の虚空界とはどのようなところなのか想像が難しいが、大地の地下深くは地球の重力が大きくなるので、スカイツリーとは逆に時間の進み方が遅くなると考えられ、釈尊と地涌の菩薩たちの師弟関係を考える時に興味深い。
 このように想像をたくましく考えると、法華経の世界は相対性理論を先取りしているのではないかとさえ思えてくる。
 法華経は、異なる視点で読みなおしてみると、そのつど新たな示唆を与えてくれる。何度読んでも興味が尽きずおもしろい。
(論説委員・柴田寛彦)

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