論説

2021年1月20日号

コロナとバーチャルリアリティ

新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響で、さまざまな会議や催し物が中止になった。議決が必要な会議は持ち回り書類決済になった。郵便で書類を往復するのではなく、メールで瞬時に情報のやり取りができる。書類のやり取りだけではなく、インターネットを利用したウェブ会議は、直接足を運んで一堂に会さなくても、自宅に居ながら互いの顔を見ながら意見交換をすることができる。便利なものである。
コロナによる休校対応として、高校や大学で、インターネットで配信される教師の講義を自宅の受像装置で受講することが行われている。私自身、宗門の教学研修を受講し、自宅に居ながらに講義を受講することができる便利さを体験した。
コロナ対策のため、病院や施設へのお見舞いが叶わない人にビデオ録画による対面が試みられ、双方にとっていい効果があったとの事例報告がある。同時に双方向に画像と音声がつながるテレビ通信はさらに効果がある。遠距離移動が制限されている中で、ウェブ葬儀やウェブ法要、ウェブ唱題行などが試みられ、効果を上げている。
便利なIT環境に慣れてくると、直接手に触れ、目に触れ、息遣いが感じられる交流から得られるものの大切さを再認識させられる。ウェブ会議で見えている相手の顔や声は、理工学的に作り出されたバーチャルリアリティ、「人工現実感」あるいは「仮想現実」であって、現実の事実であるとは限らない。便利な手段として利用する分には構わないが、そこに真実性を求めるときには、注意が必要になる。
釈尊や日蓮聖人に、直接お会いして声を聞くことは叶わない。いかにIT技術が進歩したとしても、お声や尊容を拝することはできない。しかし、朝勤で法華経を拝読していると、釈尊の存在が感じられる。日蓮聖人のご遺文を拝するとき、そこから聖人の肉声が聞こえてくるように感じられ、紙背に聖人の尊容が浮かび上がってくるような思いさえする。
物理的な現実の現象ではないが真実と感じられる感覚と、目に見え耳に聞こえるのだが真実性に疑念を感じる感覚との間には、大きな違いがある。
法華経の中に、次のようなたとえ話がある。誤って毒薬を飲んで苦しんでいる子どもに、父親である医師が最良の薬を調合して与えたが、心が混乱していて服用しようとしない。そこで医師は自分が亡くなったらこの薬を飲むようにと言い置いて旅に出、旅先から父が亡くなったとの連絡を入れた。それを聞いた子どもは、驚いて父の言いつけに従って薬を服用し、苦しみを取り除くことができた。この医師の父親こそ仏であり、苦しむ子どもたち、つまり私たちを救済するために、本当は亡くなってはいないのだけれども、亡くなったという方便を用いて導くのだというたとえ話である。
このたとえ話の中で、毒のために心が混乱していた子どもたちは、いつでもそばにいると思って安心していた父親がいなくなってしまったというショックで目覚めた。目には見えない耳には聞こえないけれども、確かに感じられる真実に動かされた。
コロナ禍の中でIT技術がもてはやされているが、私たちは目に見え耳に聞こえるように感じられる「人工現実感」や「仮想現実」に惑わされることなく、目には見えない耳には聞こえない真実を見失わない感性を磨かなければならない。会えないことは、むしろ何が本当に大切かを気付かせてくれる。IT技術はあくまで上手に使いこなすべき手段である。
(論説委員・柴田寛彦)

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