2021年1月1日
マスクケース
信仰が人生の力となっている人に出会うと、嬉しくなる。内村鑑三が「国の興亡は戦争の勝敗によらず、その民の平素の教養による」と名言を残したが、コロナウイルスとの戦いに明け暮れる日本で、微笑ましい光景に出会った▼先日、日蓮宗から各寺院宛にマスクケースの見本が送られてきた。開いて使えば、2枚の予備マスクが入れられるケース、宗門方針の「但行礼拝」常不軽菩薩品の24文字が印刷されている▼こんな経験をした。今、電車の中でマスクをしていないと、批難の目で見られる。夜遅く、酔いから醒めたであろう男性が、焦ってポケットの中を探っている。見ればマスクをしていない。突き刺さる視線、あわてている男性に、連れの僧侶がサッと紙マスクを差し出したのだ。彼は宗門のマスクケースを持っている。「日蓮宗は良い物を配ってくれた。これを活かすのは、私の役目だ。自分用に1枚、他の人ために1枚を用意している。役立ってよかったよ」。御礼を言いながら降りていく男性に会釈しながら彼はそう言った▼実はその時、私もマスクケースを持っていた。ただ、自分用の2枚という意識が、彼のような迅速な行動につながらなったと反省している▼コロナ禍の時代、社会的距離をとりながら、コロナで苦しむ人びとは元より、医療関係者に手を合わせている常不軽菩薩の姿が浮かんできても不思議ではない。(雅)