オピニオン

2020年12月1日

利休「七則」にみる新しい生活様式

 コロナ禍でソーシャルディスタンス(社会距離拡大)が叫ばれている。この言葉は人間関係を社会的に断絶する意味でも解釈できることから「フィジカルディスタンス」(身体的距離確保)が提示された(世界保健機構)。確かに「物理的距離」は確保しても人間的繋がりの距離は縮めたいものだ。茶道を大成した千利休の「七則」に、新しい生活様式のヒントを見たい。
 第1は「茶は服のよきように点て」。「服」とは「飲む」の意味、つまり美味しくお茶を点てること。掃除やお道具の用意はもちろんお客さまの動きにお点前の速度を調整したり、体調によりお抹茶の量やお湯の量、熱さを加減する。基本は相手の状態を気遣い「心から」のおもてなしだ。
 第2は「炭は湯のわくように置く」。炭は良く洗い乾燥させると煙が少なく赤々と燃える。お茶席では食べるものだけでなく炭火の色もご馳走だ。炉では湿し灰を撒き、蒸気で炉中の空気を対流させ火加減を調整する。湿し灰は炉に備え夏の土用に作る。何事も道理にかなった所作と事前準備が大事。
 第3は「夏は涼しく冬は暖かに」。寒い季節は大きい蓋の釜を使い、立ち上がる湯気で暖さを感じ、お茶が冷めないように細長い筒茶碗を用いる。夏は平らな茶碗を用い、障子を簀戸に、床には「瀧」一文字の軸を荘り涼しさを表現する。四季折々のもてなしに先人の智恵が香る。季節の移ろいや環境の変化に柔軟に対応することを教える。
 第4は「花は野にあるように」。花を生けるときは余分な花や枝葉を切り落し、清楚な美しさで自然の風景を表現する。一輪の花に「いのち」が凝縮されている。花のいのちを尊ぶ心が、全てのいのちを尊ぶ心を育む。いのちが軽薄に扱われる昨今、無心に咲く花から「いのちの尊さ」を感じたい。
 第5は「刻限は早めに」。亭主は早めに準備することで丁寧なもてなしが、お客さまは早めに行くことで亭主の細やかな設えに気づく。心に余裕ができると、主客共に心が通いあう。ビジネス界では約束時間を守らないとチャンスを逃すだろう。「あなたの最大の資源は時間だ」(ブライアン・トレーシー)。時間を大切にすることが信頼を結ぶ基本となる。
 第6は「降らずとも雨の用意」。ある冬の日、利休の長男道安が利休達を招いてお茶会をした。前日、道安宅を訪れた利休、スキを見て準備してあった炉の灰をまき散らし炉壇を欠けて帰った。気づいた道安は片付けておいた風炉で茶会を迎えた。当日、客の一人が「炉の季節に風炉とは…」と尋ねると、利休は「風炉はもともと四季を問わないもの。さすが今日の亭主は茶の道を心得た人。去年使った炉より、新しい風炉で新春の趣向をした」と道安の判断を讃えた。日々変化する日常生活、何事にも臨機応変に対処する準備と心構えを教えている。
 第7は「相客に心せよ」。お茶席では、正客や次客、末客などの席がある。正客は茶会の趣旨や道具の趣向を亭主と会話する。末客は拝見したお道具を点前座に返す。参加した客同士はもちろん平等の立場。同席できたことを互いに喜び、亭主のもてなしに感謝し合うことにより一座建立の茶会が整う。日常生活においては人との出会いを一生に一度「一期一会」の出会いと受け止めお互いを大切にしよう。「温故知新」(故きを温ずねて新しきを知る)先人の智恵を生かした生活様式考えよう。
(論説委員 奥田正叡)

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