2020年11月1日
■わかっちゃいるが
悲しさに浸っていた時、他のお寺の掲示板に救われたことがあった。「大切なこと。悲しみにも自己を失わないこと、そして楽しみにも自己を奪われないこと」。その時「苦をば苦とさとり、楽をば楽とひらき、苦楽ともに思ひ合わせて南無妙法蓮華経とうちとなへゐさせ給へ」(『四条金吾殿御返事』)と説いてくださった宗祖のお言葉を思い出した。御礼の意味を込めて「苦を以て、苦を捨てんと欲す(迷っている人は、苦を逃れるために、新しい苦の種になることをするものです)」(方便品第2)と我が寺の掲示板に書いて解説文を付けた▼人間とは弱いもので、仕事や生活の迷い苦しみから逃れようとして、ますます泥沼に落ち込んでしまう。酒を飲んで忘れようと深酒をする。一時的に苦しみから逃れて良い気分になっても、次の日には二日酔いと、前より悪化した現実が待っている。苦を捨てるためには、どうしたら良いのか? 人類の永遠のテーマだ▼このコラムの締切もそうだが、私には問題から逃避して別の行動に走る悪い癖がある。大切なことは「目をそむけずに現実を直視する勇気を持つこと」だが、別に用件を作ったりする。その度に家人から叱られる。本人より他人の方が冷静かつ的確に判断できる。この人の忠告を受け入れられるかどうかが問われるのだ。編集者から催促を受け、心を入れ替えて今、原稿を書いて……いる。(雅)