オピニオン

2020年10月10日

難から学ぶこと

 2001年9月11日、ニューヨークでアメリカ同時多発テロ事件が起きた。それから毎年この悲劇の日を風化させたくないと思い、朝礼で朗読している詩がある。追悼式で10歳の子どもを亡くした母親が朗読した『最後だとわかっていたなら』という詩である。 
 あなたが眠りにつくのを見るのが最後だとわかっていたら、わたしはもっとちゃんとカバーをかけて、神様にその魂を守ってくださるように祈っただろう。(中略)若い人にも、年老いた人にも明日は誰にも約束されていないのだということを。(中略)だから、今日あなたの大切な人たちをしっかりと抱きしめよう。そして、その人を愛していることをいつでもいつまでも大切な存在だということをそっと伝えよう。「ごめんね」や「許して」や「ありがとう」や「気にしないで」を伝える時を持とう。そうすれば、もし明日が来ないとしてもあなたは今日を後悔しないだろうから。
 大変な困難を経験し、切ない親心が伝わってくる。特に今年は大きくさまざまな概念が変わり、当たり前が当たり前でなくなった。WHO事務局長テドロス氏は、新型コロナウイルスの世界的大流行を「100年に1度の公衆衛生危機であり、今後何十年にもわたり影響を及ぼす」と語っている。医療、経済、社会が混とんとした中、教育、文化、環境という情緒的な分野もさまざまな課題を抱えている。幼稚園の園長でもある私は、緊急事態宣言が解除され6月から園を再開した。どうやってソーシャルディスタンスを取り、感染防止策を施したらいいのかなどの矛盾に折り合いをつけながらクラスの子どもたちを半分にして分散保育を始めた。
 課題は山積されているが、子どもたち、教師たちに笑顔が戻ってきたことが嬉しい。その笑顔の背景には、多くの保護者の意識の変化があるように思える。世界的な新型コロナウイルス感染拡大という事態を引き受け、自分で今できることを考えてくれているという保護者への信頼感。毎日報道される様々な事態を、世界が示されている試練と考えれば、これを人間社会というコミュニティーがどう対処するのか? そこにいる人びとの人間力が示されるのではないだろうか。 
 4月から強いられた閉鎖的な生活の中で、弱者である子どもたちにとって幸せとは何かを、それぞれの親が考えた時間がある。①子どもにとって、子どもたちの社会の存在に価値を持つ。「幼稚園が始まってくれて本当にありがとうございました。子どもがいきいきしました。嬉しいです」、②その社会が健全に機能するためには、自分たちのモラルや秩序を保とうとする姿。「うちの子、熱は下がりましたが、他のお子さんにご迷惑が掛からないように大事をとって今日はお休みをさせます」、③そのコミュニティーの一員で役に立ちたいという姿勢。「先生たちも、保育だけでなく消毒などで大変ですね。何かお役に立てることがあったら言ってください。お手伝いしますから」
 近年の子育てを保護者へのサービスという概念に変えた国の施策が施行されてから、このような言葉や態度は減少していった。今この困難をみんなで分かち合い、見失ったこと、風化してしまった記憶と共に再構築していく働きかけが必要である。『最後だとわかっていたら』という詩に託された人間が想像する力をもって他者を思い、他者に寄り添い、今自分にすべきことを悟っていくことができるコミュニティーの質に拘ろう。お寺というコミュニティーと重ねながらそう考える。
(論説委員・早﨑淳晃)

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