2020年9月10日
有名な野良猫
2ヵ月前まで、ニャン子は近所で有名な野良猫だった。ゴミ集積所を荒らし、家々からも食料を泥棒。畑を掘り返しては糞尿被害。しっぽが根元からねじれたキジトラで、警戒心が強く、激しい気性、まったく人に懐かない。危険な「ニャン子」と呼ばれ、見かければ追い払われた▼だが一方で、無責任な餌やりをする人たちもいて、彼女は毎年出産すると子育てのために泥棒を重ね、子猫も共に畑を荒らした。もしかしたら、彼女自身もそうした悲しい生まれの猫だったのかもしれない。そんな彼女が6月に再び出産。「とても大きなお腹だった。今年の子猫は多いに違いない」。彼女の存在が地域の揉めごとに発展しかけていた▼授乳期の彼女はすっかり痩せ細り、いつも以上に餌を探し回って3時間おきに見かけたほど。深夜、どしゃ降りの雨にずぶ濡れで餌を探す彼女は、わが子のために必死な母親の顔をしていた。私は思わず「みんなを連れてお寺においで」と語りかけた▼数日後、なんと、境内の子安鬼子母神堂の前に、7匹の子猫を連れた彼女の姿があった。私が扉を開けると、堂内へ入り、子猫にもみくちゃにされながらお乳を与え、潤んだ目で鬼子母神さまを見上げていた。鬼子母神さまに救っていただいた彼女は、そのまま住み着いて、避妊手術を受けた今では室内飼育の寺猫修行中。里親募集中の子猫と穏やかに過ごしている。(花)