オピニオン

2020年8月20日

宗門後継者教育に思う

 全国に私立大学が607校、そのうち、地方の大学の3割強が定員割れ、日本で2番目の小規模大学と自負する(?)宗門系大学のひとつ身延山大学(定員120人)も例外ではない。
 また、今年は新型コロナ感染症の影響で日蓮宗僧侶となるための信行道場は開設されないが、ここ数年1年間で道場に入る総数は、100人を切っている。そして、入場の半数以上は宗門系大学在籍者、卒業者ではない。
 このような現状から、近い将来、寺の後継者不足、そして基礎的な仏教学・教学と行が不足する僧侶が数多く誕生し、結局、僧侶の資質低下につながるのではないかと危惧する。
 19世紀、ドイツで活躍した鉄血宰相オットー・フォン・ビスマルク(1815~94)は、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」といった。筆者は宗門の後継者教育に携わった経験を持つが、ビスマルクの言に従い、近代における日蓮門下後継者教育について、ある学び舎のことを記すことにした。
 近代を語る時、忘れてはならない存在が武見日恕上人(1853~1917)である。近代日蓮宗の名管長といわれた望月日謙上人を見出したのも武見上人である。
 武見上人は嘉永6年(1853)10月2日、越後長岡に生誕、出家して飯高檀林に学び、身延山第74世法主吉川日鑑上人の膝下に侍し、明治19年(1866)に堀之内妙法寺第29世山主となる。武見上人は青年僧侶育成を図るため盤石な財政基盤となる組織、日宗十万人団結報恩会を明治29年4月13日に結成。会員募集目標を10万人、基本金目標額を150万円とした。この浄業に妙法寺の檀信徒をはじめ、日蓮門下の要路が数多く喜捨した。
 明治36年9月20日、東京府小石川区茗荷谷に「茗谷学園」を開設、敷地300坪に寄宿舎・食堂・割烹室からなる学舎を建てた。この学園に、都下各大学、東京帝国大学・一高・早稲田・慶応・東洋大学、日本医科大・日本体育大学などに通学する日蓮門下有縁の若人が集った。園規の主な条項をあげると、
  茗谷学園は日蓮宗門下の法器たらむとする目的を以て世間諸学校に通学する者のための寄宿舎
  本学園の生活は元来自治を本義とし、各自の自律的精神に信頼す
とある。初年度には34人が入園、以降、第2次世界大戦終了まで学園は存続した。学園内に弁論部・文芸部・運動部が設けられ、清水龍山先生、田中智学居士、本多日生上人、小林一郎先生といった超一流の講師陣が特別講義で吠えに来た。
 茗谷学園の修了者に第55代内閣総理大臣石橋湛山氏、ハンセン病罹患者救済の綱脇龍妙上人、立正大学長守屋貫教先生、立正学園(現文教大学)設立者馬田行啓先生をはじめ、卒園者には住職・大学教授・海外留学・実業家・文芸家・医師など多士済々。大正期より日蓮門下、各界のリーダーを輩出した。
 他方、通学した各大学に学園生が核となり、東京帝大・一高に「澍洽会」、東洋大学に「橘香会」、早大・慶大に「日蓮聖人讃迎会」という法華経・日蓮教学を学ぶ倶楽部を設け、日蓮門下の檀信徒子弟と共に講演会を華々しく行った。
 今、少子化にまっしぐらの日本社会にあって、宗門後継者不足と教師の資質向上を図るため、檀信徒に仏教思想の理解を深めていただくために宗門系大学仏教学部への編入学・社会人入学を勧め、あるいは充実した通信教育体制を構築することが肝要といえよう。
(論説委員・浜島典彦)

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